敗北
う~む。
まぁ、こうなるんじゃないかと思ってはいたのだが。
「見事に死屍累々でござるねぇ……」
何はともあれルーナたんだ。
ルーナたんに、カーリー戦後にだけ出現する泉の水を汲んで飲ませる。
「?!これっ」
飲むのも辛そうに嚥下したルーナたんだが、飲むと同時に目を見開いた。
「うむ。HpとMpを回復してくれる水でござる。
恐らくは精霊女王様のお慈悲でござろう」
次に向かうのはディーノさん。
もちろん、水をあげる順番は私の好意の順位である。
次をソル君にするかジャンにするか悩ましい所ではあるものの、ジャンはわりと元気そうだから後回しでいいだろう。
こいつは他の3人が瀕死になり、カーリーお姉様が、
『かくも弱き者に加護は与えぬ』
と宣言してゴゴゴっと消えていくまで戦闘は可能だったのだ。
ジャンの手持ちのポーションがなくなってしまったのが敗因……というわけではない。
もっと根本的な問題だった。
根本的な問題。
こいつらは私の助言を全スルーした。
ルーナたんだけは最初こそベールをかけていたが、すぐに回復魔法ケアーをかけまくり、Mpが切れたらポーション要員と、小石を使う暇が全くなかった。
その他3名に関してはもう……。
ソル君は。
私の助言を無視してなんとカーリーお姉様にファイアをぶっ放ち、お姉様を癒やして差し上げた。
お礼にもっと強力なファイアラーをもらって膝をついていた。
ディーノさんは。
初撃はまさかの”戦う”。
だがカーリーお姉様の剣幕に驚いたのか、2撃目からようやく魔法剣を使い始めたが時既に遅し。
ジャンのせいで食らったインフェルノジャッジメントで沈む。
ジャンは。
これは言わなかった私が悪かったのかも知れないが、カーリーお姉様に”盗む”。
精霊女王様から何を盗もうというのか。
もちろん余りの非礼に怒り狂ったカーリーお姉様がジャンに(全体攻撃だったので結果的には全員に)インフェルノジャッジメントを振る舞われ、ジャン以外の全員が沈んだ。
ジャンの魔法防御力が意外に高い点を思うと、やつは”盗む”だけじゃなくて”とんずら”も多用していたようだ。
”盗む”だけでは上がるステータスは物理攻撃力と物理防御力だけだからね。
で、最後にジャンにファイアラーを見舞われた後、失望なさったカーリーお姉様は捨て台詞と共に、玉座の上に美しく輝く宝玉の像に戻って行かれたのだ。
返す返すもカーリーお姉様のこの戦闘だけはゲームオーバーにならない仕様で助かった。
これがもろ武闘派の雷のセト様だったら詰んでたね。
氷のツクヨミ様でも終わってたとは思うけど。
とりあえず地面に正座をして、勇者一行の反応を待つ。
いくら私がルーナたんを助けたくても、助言を聞いてくれないなら、私がここにいる意味はない。
まぁ、プリンの体に戻ればいかなカーリーお姉様でも倒せるとは思うが。
ドサッとジャンが私の目の前に座った。
「……悪かった」
頭を下げてくる。私はその茶色いつむじを見ながら言った。
「精霊女王や精霊王から何を盗むつもりだったでござる?加護を得ようとする対象に対して不敬とは思わなかったでござるか?」
ジャンは少し口ごもった後、やはり頭を下げ続けながら、
「すまなかった」
と詫びた。
まぁこいつはいい。
ジャンは私の助言を聞く気はあるようだ。
詳しく話さずに省略してしまった私が悪い、のかもしれない。
違うのかもしれないが。
「すまなかった」
ジャンの隣にディーノさんが座って、ジャンほどではないが頭を下げた。
ディーノさんが聖女アンヌから聞いた加護を得る方法は、”力を示して祈る”だけ。
だから彼はまずこんな本気の戦闘になるとはあまり思っていなかったんだろう。
でも今回の勇者ご一行様にはルーナたんがいる。
彼女は月の民で、一連の災害をもたらしたルヴナンをこの地に落とした元凶、の一族である。
どの精霊王も精霊女王も今回の勇者には点が辛くなる、ということだろう。
ディーノさんに関しては、思い込みが私の助言の邪魔をしたということさえ分かってもらえればいい。
助言に従おうとしたルーナたんも何も悪くない。
いや、だから泣きそうな顔で謝らないでっ。
「ご、ごめんね、ラビーちゃん……っ!役に、立たなくてっ」
「ルーナたんは頑張ったでござるよっ!ルーナたんには問題はないでござるっ!」
そう、一番の問題児はそこに立ち尽くしているその男だ!
私は正座のまま、黙って待った。
子供の躾は、強制的に謝らせるんじゃなくて自分から謝りに来るまで待つべし、と聞いたことがある。
私はソル君の可能性を信じている。
ソル君は今のところ、初めての恋に夢中なチョーローで、かつ赤ちゃんの時にいなくなってしまった聖女であるお母さんに軽い妄想的な思いを抱いているマザコン(軽度)で、突如現われたキュートでスィートなラビウサ族に冷たい人でなしではあるものの、心の底から無能だったりろくでなしであるわけではない。
反省の機会を与えればできる子である!きっと。
「……悪かった」
私の前に突っ立って顎をしゃくるように謝るソル君。
「遅いっ!あと態度が悪いでござるっ!」
くわっと叫ぶ私を見ていられなかったのか、ディーノさんが横から手を伸ばしてソル君を座らせ、頭を押さえて下げさせた。
う~む、甘やかしてんなぁ、ディーノさん。
いかに片想いしていた聖女の息子とはいえ、甘やかしすぎは良くないと思うんだよねぇ。
ソル君も仮想パパとディーノさんを位置づけてるから、どことなく漂う雰囲気が甘くて優しい。
「……真面目に聞かなくて、すまなかった」
大好きなパパ(仮)のディーノさんに付き添われて、心なしか嬉しそうに謝るソル君。
まるで、親の愛を実感できずに非行を重ねた少年Aが、大好きな父親に付き添われて警察官に頭を下げる図を見ているかのようである。
せっかくの完璧王子様な美貌が、今ではちょっといじけた犬にしか見えないこの不思議。
「……どこまで真剣か分からないでござるが、ソル殿?貴殿はこの勇者一行のリーダーでござる。
本来なら貴殿が情報を収集し、戦略を練らなければならないでござる。
ディーノ殿はあくまでその補佐。
この一行が無事にルヴナンを倒す日まで、皆の命を預かっているのはソル殿、貴殿でござる。
ソル殿が拙者を軽く扱うのは構わぬ。
だが、もし拙者の意見が正しければ?
そう思って用心するだけの器量は、勇者として必要なのではござるまいか」
ソル君と私の目が合った。
まるでソル君は初めて私と向き合ったみたいに、軽く狼狽して目を泳がせ始めた。
ふむ。
ソル君はきっと私のことを動くぬいぐるみ程度にしか認識してなかったんだろうな。
まともなことを言われて戸惑っているようだ。
「……ごめん、なさい」
ちょっとしょんぼりした感じでソル君が謝った。
いかにも謝り慣れてない感じでたどたどしく。
ふふぉぉぉぉっっ!
美形過ぎるソル君に興味はなかったけど、ちょっとこのしょんぼりなソル君には身悶えしちゃったよ!
なんだかイケナイこと教えたくなっちゃったよ!
あ、はい。
そういう空気には敏感なんだね、ディーノさん。
ごめんなさい。
そんな冷静な目で観察しないでください。




