プロローグ
思わず叫んでいた。
「そこっ、そこでござるよっ。その角を左に曲がるでござる!」
場所は氷の聖域。
氷の精霊王が統べるダンジョンの中だ。
このダンジョンは壁も氷色で、うっすら向こう側が透けて見える分、どれだけ手前に宝箱があるか分かりにくい構造になっている。
だが。
なんてったってこのゲーム、BF6を呆れるほど何度もやり込んだ私に分からないはずはない。
あそこを右に曲がると、ジャンの専用武器であるブラインナイフが入った宝箱があるのだ!
「っと、危ねぇな」
ガツッとジャンの胸先すれすれで牙を空しく噛み合わせた青い狼。
正式名はスノウウルフ。
そいつの急所をジャンはあっさり突いて倒す。
シーフの癖に戦闘力も高いという、ちょっと腑に落ちない男だ。
「ジャン、気をつけろよ」
勇者であるソル君があまりジャンを心配していないのは、彼らのつき合いが長いせいだろう。
ジャンの強さをよく知ってるというか。
「おい、これか?」
マイペースに宝箱を指さして見せたのは剣士のディーノさん。
勇者ソル君の親世代である、渋メン剣士だ。
顔も声も、その潰れた左目も渋い。
……大好き。
「それでござる!」
私は嬉しくなって思わず叫んだ。
ふふふ~、ブラインナイフ~。
これがあればジャンが攻撃するついでに、相手を時々暗闇にしてくれるのである。
もちろんボス戦には耐性があるので使えないが、雑魚戦では重宝するのだ。
なんせ相手の攻撃がことごとくミスっていくのだから!
「良かったねっ、ラビーちゃんっ」
北欧系プラチナブロンド美女であるルーナたんがちょっと腰を落として私と目を合わせ、にこっと太陽みたいに明るい笑顔を向けてくれた。
あぁ……なんて至福。
まさかプリンに転生してこんな至福を味わえるだなんて、思ってもみなかった。
始まりは……モンスターの踊り食いだったからね。