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ティバラギー村、『じゃがいも騎士団』奮闘記  作者: たまり
じゃがいも騎士団の冒険 編
8/12

 ティバラギー村、週末魔物討伐隊 ①

今回から数話、賢者ググレカス本編の

『第867部分 ティバラギー週末魔物討伐隊【前編】』あたりのリプレイとなります♪

テンポよく公開します。

 ――ここで、二ヶ月ほど時間を遡る。


 北の大地、ティバラギー村から遥か北に望むファルキソス山脈の頂きに白い残雪が輝いている。

 王都メタノシュタットから百五十キロメルテも離れたこの地では、青々とした若麦の絨毯と、綺麗に耕されたジャガイモ畑の黒土が、道の両側に几帳面なモザイク模様を描きながら続いていた。


 沿道には色とりどりの小花が咲き乱れ、戯れる二匹の蝶が短い春の訪れを告げていた。


「いい天気だな!」

「うん……!」


 イオラの隣で、少女――ハルアが微笑む。


 最近はよく笑うようになり表情も豊かになった。そんなハルアをイオラは可愛い、と思う。


 牛車に揺られながら見上げる空は青く、どこまでも広がっていた。きっと(リオラ)が暮らすメタノシュタットの空とも繋がっているのだろう。


 ――ティバラギー村を元に戻して、昔みたいに家族(・・)と共に暮らしたい。


 それがイオラが抱く、ささやかな夢になった。


 以前と少しだけ変わったのは、「(リオラ)と暮らす」ではなく、家族(・・)という言葉に置き換わった事だった。賢者様とその家族達との暮らしは、イオラを一回り大きく成長させてくれた。

 けれど温かい揺りかごから巣立った今、前を向いて歩くときだと自分に言い聞かせる。


 イオラが御者をし、ハルアを乗せた牛車は、ギシギシと車輪を鳴らしながら、のんびりと村外れの集合地点(・・・・)を目指して進み続けていた。


 ――ティバラギー週末魔物討伐隊。


 通称『じゃがいも騎士団』


 今日は村主催の魔物討伐の決行日だ。


 腕に少し覚えのある若者達がチームを組み、この季節になると畑を荒らしに来る魔物を退治するという、村の恒例行事だ。

 魔王大戦の混乱も落ち着き、ようやく再開したこの行事は、村の生活の安定に一役買うだろう。


 危険な魔物相手ともなれば、本来は戦闘のプロである『護衛業者』を雇うのが筋だ。しかし、安い報酬で仕事を引き受けてくれる護衛業者など居るはずもない。

 手に負えないような魔物の場合は王政府からの支援もあるものの、王国の戦士はあくまでも他国からの侵入など、人為的な脅威に備えた守人(もりと)なのだ。


 となれば、自分たちの村は自ら護るしかないのだ。


 魔王大戦においては、同じような理由から多くの男達が村を護るために戦い命を落とした。

 平和となった今は、流石に魔王の力に影響され、無差別に襲ってくるような『凶暴化した魔物』こそ出没しなくなった。だが、この季節は食料を求めて畑を荒らす野生の異種生物が出没し、被害が出ているのだから放ってはおけない。


「ごめんねイオくん、折角の休みなのに……」


 淡い栗毛をゆるく編みこんだハルアがイオラに話しかける。御者席で手綱を握るイオラは手慣れた様子で牛を操りながら、傍らに座るハルアに視線を向ける。


「え? 俺はむしろ楽しいけどな。それに、村の役に立つことだしさ」

「うん……そう言ってくれると嬉しいけれど、魔物討伐は危ない事だよ? ぜったいに怪我とか……しないでね」


 ハルアは心配そうにそう言うと、癒えた傷痕を確かめるように左腕を撫でた。

 不思議な力を持つ麗しの僧侶様と、偉大な王国の賢者様の魔法により、人前に出ることさえ躊躇っていたハルアの傷は癒やされた。

 そして、魔物に襲われた時に感じた死の恐怖と深い「心の傷」は、イオラという、心の拠り所になる友達(・・)と居ることで徐々に薄らいでいた。


「俺さ、一応それなりに経験はある方だと思うけどな?」


 イオラは微笑むと、背中に括りつけたバスタードソードのベルトを引っ張って見せた。


 身に付けているのは愛用の革の鎧。すこし窮屈にはなったが、結合部の紐を調整すればまだまだ使える。何よりも、尊敬する賢者様から買って貰った大切な品だ。僧侶様による祝福(フェス)の魔法も掛けられている。

 左腕には、盾代わりのフライパン。城前広場の露店で二束三文で売られていたのでつい買ってしまったが、魔法の特殊加工が施されていて「熱を通さない」という代物だった。どうやら魔法工房(マーセナル)で作られた欠陥品で、こうして盾にするしか使い途のないインチキ商品だった。


「すごい人たちとイオ君は旅をしてきたんだもんね」

「あはは、後ろから見てただけだけどね」

 尊敬する賢者様一行との旅は、イオラに貴重な経験を与えてくれた。それは普通に暮らしていては決して味わえない、スリルと冒険の目くるめくような日々でもあった。


 だから今度は経験を活かし道を切り拓いて行く番だ、とイオラは決意する。


「それよりハルアもお弁当係で一緒に来るなんて、怖くない?」

「どうしてもイオくんと一緒に行きたくて……。ダメだったかな?」

「ま、まぁその……大丈夫。……俺がいるから」


 心配そうなハルアを安心させようと、イオラは御者席の上に並ぶ膝上から左手を動かして隣の小さな手を掴んだ。顔を赤らめつつ手を握り返すハルア。


 そうしている間にも巨大な二頭のルーデンス野牛が牽く牛車は進んでゆく。


 牛車は人が歩くよりは少し早い程度でしか進めないが、重い荷物を運ぶことが出来る。

 そして道の整っていない荒れ地や、少々の悪路など物ともしない力強さが、このティバラギー村で使うには合っている。


 イオラがこのティバラギー村に来てから、一週間が過ぎていた。


 離れ離れになった妹、リオラの事を想うと心配で夜も眠れない日々が続いたが、人間は慣れる生き物らしく、なんとか自分の気持に整理をつけた。

 楽しくて賑やかだった『賢者の館』での暮らしを思うと、最初はすぐにでも帰りたい気持ちになった。けれど、男として一度決めた道を後戻りする事はできねーよ! と、イオラは自分を鼓舞し、気持ちが揺るがないように頑張った。


 肩にはイオラを励ますように、半透明のピンク色の相棒が乗っていた。それは賢者様のお屋敷で暮らしていた可愛い少女ラーナがくれたスライムだ。


「イオくんのお友達、可愛いね」

「え? あ、コイツは館スライムのラナコっていうんだ、そのうち増えるらしいよ」

「増えるの!?」


『……キュ!』


「鳴いた!? スライムって鳴くの!?」

「あんまり気にしたことないんだよなー」


「イオくん、そこは気にしようよ………」


 ◇


「あ、イオくん! あそこ」

 ハルアが少し先の水車小屋を指差した。そこには近所の集落の人々だろうか、十数人が集まり、一台の牛車を囲んでいた。村の農夫に老婦人、幼い子供達……。その視線の先には数人の若者達がいて、牛車の荷台に立っていた。


「集合地点にもう誰かいる。3人……4人?」


 森の手前には、綺麗なせせらぎと水車小屋があり、その前に一台の牛車が停まっていた。

 見ると、剣と革の鎧で武装した背の高い若者が一人、小柄な男が一人。他には弓を抱えた少年が一人立っていた。そして、牛車の荷台には、四角いメガネの少女が一人、本を読みながら腰掛けていた。


「あれが……、ティバラギー週末魔物討伐隊。じゃがいも騎士団?」

「多分。確かこのあたりは、第三班だよ」


<つづく>



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