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ティバラギー村、『じゃがいも騎士団』奮闘記  作者: たまり
じゃがいも騎士団の冒険 編
12/12

 勝利と、あたらしい仲間たち

「ボサッとすんなイオラ! まだ一匹いやがるぞ!」


 大剣を構えて叫ぶリーダーの目と鼻の先に、三匹目の『狂狼属(ヴァブレス・ウォルフ)』が迫っていた。その体は最初の二匹よりも大きい。

 仲間を殺された怒りからか、真っ赤に血走った眼でこちらを睨みつけたまま、走り寄ってくる。


「やばっ……マプルっ! 魔法で支援して! 先週使ったヤツを唱えてよ!」


 樹上から全体の動きを観察するハーリ・ミールが、魔法使いのマプルに向かって叫ぶ。


「え……!? あ、うん……!」


 メガネをかけた魔法使い少女が、樹上で弓を構えるハーリ・ミールに(てのひら)を向けて、魔法を唱えはじめた。


「――汝は鋭き矢じり。聖なる加護と祝福(フェス)よ! 正しき空気の精霊の導きにより忌むべき敵を貫き給え! ――『命中率向上(アタルカモン)』!」


 呪文詠唱を終えると、ハーリミールが構えた「矢じり」の先端が白い輝きを帯びた。


「ありが、とっ!」

 ハーリ・ミールが矢を放った。猛烈な勢いで走ってくる『狂狼属(ヴァブレス・ウォルフ)』に対して放たれた矢は、まるで動きを予測していたかのように吸い込まれてゆく。


「お…………?」

「あ……?」


 マッスフォードとイオラが放たれた矢に気がつく。走り込んでくる『狂狼属(ヴァブレス・ウォルフ)』に向けて剣を構えたまま、固唾を呑んで飛翔する矢を視線で追う。


「いけっ!」


『ガグウッ!?』

 音もなく矢が突き刺さった。『狂狼属(ヴァブレス・ウォルフ)』の前面、肩の部分に斜めに突き刺さったが致命傷には至らない。それでも突進を鈍らせる効果はあったようだ。


「あちゃーっ! 惜しいじゃん!?」


「でも、実質命中?」


 ハーリ・ミールが樹上で悔しそうにジタバタと手脚を動かし、魔法使いのマプルが満足そうな顔でメガネをくいくいっと直す。


「あぁ、惜しい!」

「惜しい!」


 イオラとリーダーは同じリアクションをしながら叫ぶと、互いに頷き『狂狼属(ヴァブレス・ウォルフ)』に向けて走り出した。


「いくぞイオラ!」

「おうっ!」


「が、がんばれぇええ……!」


 少し離れた位置では、内股で剣を構えるティル・リッカーが、情けない声援を投げかける。

『グルゥウウッ!』

「しゃあっ!」

「ずおりゃっ!」

 既に手負いとなった『狂狼属(ヴァブレス・ウォルフ)』一匹など、勢いが付いた戦士二人の敵ではなかった。

 イオラがバスタード・ソードで喉と首を切り裂くと、マッスフォードの剣が心臓を貫いた。大きなオオカミの体はその場に崩れ落ちた。動かなくなった躯に片足を乗せて、リーダーのマッスフォードが勝どきをあげる。


「よっしゃぁああ! どうよ!? すげぇぜオレら、化けオオカミ三匹退治だ!」

「はは、やったぜ!」


「やったねー! イオラ君が来てくれてホントよかったよー!」

 樹から飛び降りて、イオラの手を握るハーリ・ミール。

「あ、うん!」


「同感、リーダーの俺スゲー独演を聞かなくて済む」

「僕の出番が無くて良かった……」

 胸を別の意味でなでおろすマプルとティル。


「うぉい!? おまえら俺を何だと思ってやがる!?」


 ちょっと憮然としつつツッコミをいれるリーダー。


「みんな、これからもよろしくなっ……!」


 気がつくと、イオラは自然な笑みが溢れていた。


 こうして――ティバラギー週末魔物討伐隊、イオラの初勝利は予想外の大物退治で飾られることになった。


 ◇


 時刻は夕方――。


「じゃぁな! また来週なー! 次も彼女連れで来いよー!」

「ばいばいーいイオラ君、また行こうねー!」

「次回こそ、超絶火炎魔法をみせる……絶対」

「よかった、無事に帰れるね!? 帰っていいんだよね!?」


「みんな、また、来週!」


 今日の討伐を終えて、イオラは新しい仲間たちと別れ帰路についた。


 討伐数は、『狂狼属(ヴァブレス・ウォルフ)』が全部で3匹それに、巨大なジャイアントフロッグ2匹と、イノシシ魔獣、イノブーを1頭だ。

 半日の遠征ではなかなかの成果と言えるだろう。

 イノブーの肉は美味しいし、オオカミの毛皮は貴重な収入になる。それらは全て随伴したハルアたちの乗る牛車に回収した。

 載せきれない分は魔法の水晶球を使った通信で村役場に伝え、別の牛車を引き連れた回収班の応援を寄越すらしい。


 冒険を終えたイオラはハルアと牛車に揺られながら、ハルアの両親の待つ家へ向かう帰路についた。


「イオくん、なんだかとっても楽しそうだね」


「え? あはは……、まぁ久しぶりに血が騒いだっていうか」

「すごいね……。怖くなかった?」

「全然平気だぜ? 魔物なんて」

 危ない場面もあったかもしれないがハルアの手前、ここは強がって見せる。ハルアがもう、魔物なんて怖がらないように、笑顔でいられるように。


「でも無事でよかった」

「ありがとハルア。……っと!?」

「きゃ」

 牛車がガタリと揺れて、思わずハルアはイオラの腕に掴まった。

 ハルアがぎゅっとイオラの左腕を掴み身を寄せた。身体の温もりと柔らかさに、イオラは少し顔を赤らめる。けれど夕日に染まっていたのは幸いだった。


「このままでいいよ」

「……うん」


 牛車の手綱を握りながら、淡い黄色とオレンジ色のグラデーションに染まってゆく広大なティバラギーの風景に視線を向ける。

 明日からはまた農作業をしながら、時々新しい仲間たちとの冒険に赴くことになるだろう。

 そんな新しい日々に、イオラはそっと思いを馳せた。


<つづく>


次回、いよいよ新章突入!

新たなる脅威が村に迫る……!

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