第3話 心
「なぁ、この町について教えてくれないか?」
俺はこんな純粋な疑問をさっき知り合った少女に質問する
「どんなことを説明すればいいのでしょうか?」
町の広さ、人口、そしてこの町の治安、あとはこの町の施設について
いろいろと説明を聞きたい
「うーんまずは町の治安について聞きたいんだけどこの町の治安ってどんなかんじ?」
「治安はあまり良くないですね」
そうなのか、でもさっき見たときはそんなに治安悪そうな感じじゃないと思ったんだが
「そうなの?でもあんまり争いは起きてないけど?」
「そうですね争い自体は起きていないのですが」
「経済的な問題で争いが発生するんですよね」
経済的な問題?でもお金は潤ってるぞ俺は
「経済的な問題と言うのは主に第15回魔法祭の時に」
「魔法祭?」
「はい、魔法祭というのは年に一回行われる新魔法の実験を試すためにやる例大祭です」
「その魔法祭の時に事件が起きたんです」
事件?なんだろう
「事件ってなんだ?」
「事件はとある魔術師の魔法発動実験の時に間違えて世界の破壊に関わる大爆発な魔法を使ってしまい」
「それが影響で建物は殆ど壊れてしまい、人も80万人も死んでしまって」
80万人?そんな無惨な事がどうしてこんなことに
「それでそのとある魔術師はどうなったの?」
そう、それが一番気になる
だって80万人も殺した魔術師なんてどうなるか
気になるに決まってる
「逮捕されました、判決は悪意のない殺害のため死刑ではなく終身刑で終わったそうです」
「なるほどね、そのとある魔術師って氏名は?」
「加島 正之34歳です」
この世界では片仮名表記の名前だとおもっていたんだが
どうやら異世界でも名前は日本の名前なんだな
「なるほどね、それが原因で俺を召喚したってことか」
「まぁそんな感じです」
そうか、それにしても加島さんも不憫だよな
こんな殺意目的がないのにこんなことになっちゃって
そして80万人も死んじゃったなんてどうやっても償いきれないだろう
癒えることはないだろう、この事件は
「じゃあ次の質問だが、この町はどんな施設があるの?」
MMOなら武器屋や防具屋に道具屋などいろいろあるはずだ
「うーんと、まずこの町の広さは大体15㎞程度で」
「南地区と北地区と東地区と西地区にわかれています」
「南地区には主に武器防具などの戦闘の際に利用する物が売られています」
「そして、東地区には、道具販売や食材売り場などがありますね」
「んで北地区は、マンション専門ですね、いろんなマンションに人が住んでいます」
「そして最後は西地区、これは何かイベントがない限り基本あまり使いませんね」
ふむふむなるほど、こんな感じなのか
なかなか良い町じゃん、中世ファンタジーのMMOなんて無数にあるけど
まさかこの世界ってネトゲと異世界を両方合わせた世界で、少し現代要素も加わってるみたいだな
たとえば名前とか、中世モノの世界観なのに日本人の名前みたいだったしな
「あと移動の際は転送装置が各地区にありますので、移動は基本そこで行うのが一般的ですね」
転送装置もあるのか、MMORPGで町の転送はよくあることだけどな
「他の町への転移はどうすればいいの?」
「それは、この町の中心核のエリアに別町記憶転送機能があります」
「この機能は各町にも存在しており、この転送記憶のためのクリスタルに触れればいつでも転送可能になります、そして、この転送機能を利用する際には町ごとの距離で料金がかかります」
なるほどね、カンタンじゃん、ネトゲ歴5年の俺なら大体のネトゲ知識はあるからね
たとえばマクロ編集とかチャット用語とか、skyなら周りの人へチャット送信で
shautなら町中の全冒険者へのチャット送信ができて、Tellなら対象者のみにチャットができる
これはどのオンラインゲームでも当たり前のように利用される機能だから
覚えておいておかないと誤爆という恥ずかしいことになってしまうかも
ちなみに誤爆というのはパーティメンバ―に送信するはずが間違ってシャウトなんかしちゃったら
恥ずかしいったありゃしない、俺も一回経験したことがあるから
もうこんなことしたくないさ
あとこの世界ってNPC
はいるんだろうか、いたら同じことを何回もべらべらとしゃべるんだろうな
画面越しでゲームやってた頃は、たいして気にしてないんだが
実際に見てみたら同じことばかり言うのってなんか怖くねぇか
あ、そうだ、聞いてみるか、この子に
「この世界にNPCはいるのか?」
「はい、ですがただの同じことばかり喋るNPCではありません」
「ん?まさかそれぞれ人間みたいに心があるのか?」
「はい、そうです、みんなそれぞれ心を持ち感情があります」
「妬み、怒り、憎しみ、喜び、悲しみ、笑い、いろいろな感情を人間と同じようにもちます」
そうか、ならちゃんとNPCはロボットのように動くオブジェクトじゃなくて
ちゃんとした人間なんだな、だったら俺みたいな冒険者でも普通に喋って
仲良くなれるってことか
「ところで君は何者?」
「はい?」
「君はNPC?それとも普通の冒険者?あと、名前なんていうの?」
名前、聞いてなかったな、そういえば
「私の名前は白光 恋聖です、生年月日は2003年2月12日生まれです」
「そして、私は冒険者です、レベルは21、ステータス値のパラメーターは
HP678 MP478 STR32 VIT72 AGI220 INT187 MND114 です」
「ちなみに回復専門でステータスパラメーターを上げています」
なるほど、やっぱり回復専門家か
見た目からしてそうだと思ったよ
「そうか、やっぱりね、見た目からわかるよ」
「君の服装がなんか天使みたいに見えて可愛いだよな」
そう言うとこの子がなんか照れてしまっているように
顔を少し赤らめていた、なんか俺凄いこといったのか?
「そ…そうですか…?ありがとうございます…」
急になんかさっきまで冷静に説明していたのに
なんかこの子クールなんだけどデレ要素もあるんだな、初めて知ったよ
可愛いなぁ、まぁそんな事考えてたら白光さんが質問してきた
「あの…あなたのお名前は…?」
「うーんとね、俺は北川哲、生年月日は2001年9月7日、年齢は15歳の高校生だ」
「改めてよろしくお願いします、北川さん」
「あぁ、こっちこそよろしくな」
そんな会話が続いた後、ついに本当の真相を知る
(ふん、なに楽しそうに喋ってんのよ)
20代後半の女性のような声が聞こえてきた
どこからかそんな声が聞こえる
そしてその声の正体がこの時計塔の近くで現れた
目の前の人は身長が160cm程度で黒い服を身にまとい
周りには漆黒のオーラが漂う
そして、この謎の女性は、白光さんの前の3歩手前に近づく
「ふん、なによこんな男としゃべってるなんて」
こんな男ってなんだよこんな男って
「こんな男?彼、北川さんは私にとってとても価値のある方なんです、貴方なんかに口出しされたくないです」
?もしかしてこの人、白光さんにとって敵たる存在なのか?
「あら、私は忠告してあげてるだけじゃない」
「何をですか」
「こんな奴といるとあんたまで漆黒の炎に飲み込まれるわよ」
漆黒の炎?あぁ、俺の腕に宿したあの深紅の炎か
だけど漆黒の炎だからそれよりもはるかに強力な力なのだろう
「その漆黒の炎で奴を討滅できるのですよ、私がその力を使い、そして世界を救うために」
「世界を救う?そんな正義の味方気取ってるやつが一番弱い事をまだ知らないみたいだね!」
「えぇ、貴方の言うことも一理ありますが、ですけど」
「私には譲れない自分だけの正義を通して生きていきたいのです、この想いは誰にも口出しされたくないです」
俺は知ってしまった、この子、白光さんの本当の事が
そう、この子はこのねじれた異世界を救い、そして現実世界へ帰るために
日々頑張っていることを
「譲れない思い?そんなのこの私にだってある、あんたみたいなやつのねじれた価値観が私には癪に障る」
「だったらどうするんです?」
「町を出て、そして闘いなさい、私と一対一で、そこの少年は手出しするんじゃないわよ」
なんか、俺がこの正義の議論の会話で浮いてる存在に見えるのは気のせいだろうか
「わかりました、貴方の思っていることが間違っているかどうか確認させてもらいます」
「ふん、そうやって自分の価値観を押し付ける奴って一番目障りなのよね」
「貴方に言われたくありませんねそんな事」
「うざいのよ、あんたのその生意気な考え方がなぁ!!」
こうして白光さんと謎の女性との闘いが
今始まろうとしていた
だが俺はただそれを見ていることしかできない
非力な存在だということに今、気づく
たとえ、あの子に必要とされていても
それ以外の人からは誰も必要とされないことには
なんら変わらないのだから
続く