エピローグ
エピローグです。
事件編、推理編、解決編を読んでおられない方は第一部
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から読むことをおすすめします。
「で、あなたはいつから犯人が分かっていたの? それともあなたは時間が過ぎるのをただただ待っていただけの、ラッキーな男なの?」
暗闇の中にある強烈な光がそう言った。
「どっちでもあるな。花澤という女が怪しいとは思っていたが、俺がやることは隠し子を守ることで、犯人を探すことではなかったから」
「で、いつ花澤という女が怪しいと思ったの?」
俺は首を揉んだ。下半身はもう動かなかったが、上半身はまだ動かせた。
「部屋に帰る前にドアを開けた時かな。男が死んでいたから。これはどう考えても花澤が関わっていると思った。他のやつにはアリバイがあるし……。あとは、そうだな。朝に花澤が小さく叫んだ時かな。皆が社長の部屋に集まっている時だよ。社長の前には殺人者が二人立って、死体は見えなかったんだよ。花澤が立っている位置からもね。血が見えたからそれに対して叫んだのかもしれないけど。まぁ、その二点だな」
「へぇ」
女が飲んでいるコーヒーの匂いが漂っている。
「俺にもそのコーヒー貰えないかな?」
「散々飲んできたでしょう」
「それでも飲みたいんだよ」
「ダメ」
女はそう言って、今度は煙草に火をつけた。光とは違う明かりが見えた。
「で、一ヶ月半どうだった?」
「楽しかったよ。女の体っていうのが本当に最悪だったけどな」
「何が?」
「一ヶ月半だぜ? 分かるだろ」
女は笑った。
「そういえば花澤っていう子は自首したそうね」
「ああ。みたいだな」
「興味はないのね」
「ああ。ないね。……俺が興味を持っているのはあんただよ」
副流煙が飛んできた。
「気持ちが悪い」女はそう吐き捨てた。
「あんた、俺の他にボディーガードを雇ったのか」
「もちろん。だって相手は二人も殺し屋を雇っていたのよ? こっちも二人用意しないとフェアじゃないでしょ」
「なんで相手が二人も用意したって分かったんだ?」
「ルールだからよ」
ルール?
「ゲームなんだからルールがあるに決まってるでしょ。手駒の数を教えるのもルールの一つよ」
ゲーム?
「関係ないけど、月次郎って人は馬鹿だったのかしら。あなたも殺人の依頼内容を見たでしょ? あの人、隠し子を殺してくれとしか言ってなかったみたいね。孫が殺されたら馬鹿みたいな家訓は終わりなのに」
女は何かを思い出したのか、一拍おいたあとにクスクスと笑った。
「ああ、あの図体のでかい男が殺された時は大声で笑ったわ。自分の隠し子が孫を殺した時、月次郎って男はどんな表情をしたのかしら。……それにしても、あなたのおかげで稼がしてもらったわ。駒を一つ失くしたのは残念だったけど――ああ、あなたが殺したんだったわね。なにやっているのよ」
「ゲームって……。これは依頼……つまり仕事じゃなかったのか?」
「……。ええ。もちろん、あなたにとっては仕事よ。でも、ギャンブルゲームにしてもいいじゃない。私たち暇なのよ」
人の命って相当軽いんだな。
「あ、人の命ってそんなに軽いのかって顔したわね」
……。誤解だが、とりあえず黙っておこう。
「あなたコーヒー飲むでしょ? 煙草も吸うでしょ? それと同じよ。彼らは私たちにとって消耗品で嗜好品なの。つまるところ、あなたは高級消耗嗜好品ってところね」
生きた人間たちの復讐劇は、俺にとっての仕事場。そして、その仕事はこの女にとってゲームか……。
「気に入らないなら断ってもいいのよ」
「いいや、そんなことはない。これからも頼む」
女がにやりと笑った気がした。
「考えておくわ」
「そういえば、こっちの依頼主は誰だったんだ?」
「花澤って子の母親よ」
「そうか。母親か」
「自分の娘が殺されるのは嫌だったんでしょうね」
「ああ。まぁ」だが、しかし。「ボディーガードはいいとして、なぜ母親は田辺家の誰かを殺す依頼をしなかったのかな」
「あら、やっぱり分かっていなかったのね」
「どういう意味だ?」
「まぁ、あなたは刑事でも探偵でもなく、ただの殺し屋だからしょうがないわね」
いつの間にか光は小さくぼんやりとしていた。
「そうだ。ここは何もないからつまらないでしょ? だから暇つぶしのクイズにするわ。なぜ、花澤って子の母親は私に殺人の依頼をしなかったのでしょうか」
女はなんだか楽しそうだった。よほど儲かったのだろうか。何を儲けたのかは知らないが。
「ただの殺し屋にも分かるようにしてくれよ」
「ヒントが欲しいの? 仕方ないわね。じゃあ――ヒントはそうね、他の誰かではなく、私に依頼したことかしら」
「……分からないな」
「まぁ、ゆっくり考えなさい」
女がそう言うと、光は完全に消えた。どこからどこまで続いているのか分からない暗闇が俺を包んだ。
俺はまだ動く首を横と縦に振った。そして、クイズの答えを考えながら、時間の流れも感じられない黒い空間をみつめた。
暗闇に残る嗜好品の匂いを俺は思いっきり吸い込んだ。ふいに思い出したのは熊野の言葉だった。
「『血のついた服が隠されていると考えるのではなくて、僕らはどうやったら服に血がつかないか考えるべきだったんです』……か」
本作品を読んでくださり、まことにありがとうございました。
叱咤激励、助言、矛盾点の指摘、誤字脱字なども含め感想を書いてくださると嬉しいです。(それを今後の作品に反映できるかは分かりませんが)
そして、まず謝ります。
動機を深く考えていませんでした。申し訳ありません。
あと、初めてこんなに長いものをかいたせいか話をきちんとまとめられませんでした。
質問があれば答えますが、自己補完してくれると助かります。
さて、ミステリ(?)、推理(?)小説を書き始めたのは今年に入ってからです。
きっかけは何だっただろうかと考えたところ、たぶんそれはミステリ小説にはまったからだと思います。
今までは純文学を主に読んでいたのですが、ちょっと読み苦しくなったのでめくり休めにと思い、手にとったのが東野圭吾の「赤い指」でした。
いつも読んでいるものとは違うストーリー展開は読んでいて新鮮でした。
と言ってもミステリ小説を読んだことが全くなかったわけではありません。
たしか生まれて初めて読み切った小説はミステリ小説でした。母が持っていた赤川次郎の「三毛猫ホームズの推理」がそれです。
そしてそれが、私がミステリ小説から離れた原因にもなったものかもしれません。なにせあのぶっとんだトリックです。あれには小学生の自分も「えー!?」と思ったものです。
なんだか親戚のオジサンがやるバレバレマジックのような胡散臭いものを見たような気がして、二巻目以降は読んでいません。
ですが、最近はミステリ小説をよく読みます。今読んでいるのは綾辻行人の「びっくり館の殺人」です。こういう建物を使った話もいつか書いてみたいです。
それにしても、殺し屋パンダシリーズはこれで三作目です。(といっても、パンダが出てきたのは一作目だけですが)
実はこのキャラクターは私が中学生の頃に作ったものです。可愛い顔して、血のついたハンマーを振りまわす(Not飛び道具)というのが個人的にツボです。
ええ。そうです。今回は違いました。なのでそろそろ原点回帰しないといけないなと思いまして、次はパンダを出します。
そして、もしかしたらパンダシリーズは次で最後になるかもしれません。小説を読む読者の一人として、未完で終わるのは見たくないので、とりあえずそこは必ず解決したいと思っています。
それも含めて、ミステリ小説を投稿するのはまだまだ先になると思いますが(予想では真かまいたちの夜をやり終えてしばらく経った頃)、他の小説は今月、もしくは来月に投稿したいと思っています。
たぶん短編になると思いますが、そちらの方も読んでくださると嬉しいです。
それでは、ここで。
駄文失礼しました。




