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覆面殺人  作者: nab42
20/22

唇に注意

推理編になります。

事件についてまだ読んでおられない方は、第一部

http://ncode.syosetu.com/n3094w/1/

から読まれることをおすすめします。


 俺は撃鉄を起こし、引き金を引いた。俺がすっかり忘れていた謎を解いた男は、倒れた。最初から命がなかったかのように、男は床に寝ていた。まるで人形のようだ。

「で、美静さんとやら。君は隠し子なのか?」

 女は俺を見上げた。何かを見透かしたかのような目だ。気に食わない。

「はい。そうです」彼女は言った。だが目とは違って、声は震えていた。

 花澤はちらりとそれを見た。

「本当か?」

「ええ。そうじゃなければ、寝ぼけたふりをしてあの男の部屋を覗いたりしません」

「なぜ覗いた?」

「社長がすでに寝ていると思わせて、深夜に誰も行かないようにさせるためです。誰かが行ったら犯行時間がばれやすくなるでしょ?」

 俺は鼻で笑った。

「それが仇となったわけだがな。三津崎とそこの女がきちんとベッドライトを消していればな、話は変わってきただろうに」

 まぁ、こいつが隠し子だろうが、隠し子じゃなかろうがどうでもいいのかもしれない。確実に隠し子なのは花澤の方だ。こいつを殺し屋から守れば問題ない。

 ん? まさかこの美静という女は殺し屋か?

 いや、それはないか。殺し屋なら死体を発見してすぐに花澤に隠し子なのかどうか確かめに行くだろう。

 それにしても、二人とも可愛いな。隠し子を守れというのが、任務だったが……。ということは、死なせなければ何をしてもいいわけだ。いいね。

「さて、俺はこうやって人を殺したが、実はお前たちを守るためにやってきたんだよ。殺人者から守るためにな」

 二人は何も言わなかった。だが二人とも、ちらちらと銃を見ていた。

「この銃が怖いのか? ならここに置こうか」

 俺はテーブルの上に銃を置いた。そして、ポケットから煙草とライターを取り出した。この島に持ってきた煙草だ。やはり吸いなれた銘柄の方がいい。

「あの……」

「なんだい美静ちゃん」

「あの、殺し屋云々っていう紙はあなたが?」

「あれか? ああ、俺だよ。君達を殺そうとしている奴らがいるのを知っていたからね。ちょっと遅すぎたけど。でも、一人は自滅して、一人は俺が殺した。問題ない」

 俺は煙草を咥え、ライターで火をつけた。そして、肺いっぱいに煙を充満させ、それを吐く。

「なぜ、熊野さんと八屋さんも殺したのですか?」

「うーん。なぜだろう。……八屋の方は、殺し屋かもしれなかったからかな。熊野の方もそうだけど、そうだな……。熊野はどちらかというとむかついたから殺したのかな。でも可能性は潰しておいたほうがいいだろう。あとで彼らが殺し屋だと分かったら、もうどうしようもないからね」

 俺がそう答えると、美静はごほんと咳をした。

「こんな部屋いたくないよな? 死体がある部屋は嫌だろう。よかったら上に行こう。船がくる明日の昼までそこで過ごそうじゃないか」

 花澤は黙って、また泣きはじめた。殺人に加担したことが、そんなに辛いことなのか?

「あの」

「なんだい美静ちゃん」

「煙草を」

「煙草?」

 俺は煙草を吸い、灰をテーブルに落とした。

「貰えませんか?」

「煙草吸うのか?」

「ええ。昨日はその銘柄が見当たらなかったので」

 うーん。どうしようか。この一箱しか持ってきていないのだが……。まぁ、これからやらせてもらうんだ。一本くらい前払いとしてやろうか。

「いいよ」俺は箱から煙草を一本取りだして、彼女に渡した。

「火を」彼女はそう言って、煙草を口に咥えた。どちらかというと幼い顔だが、そのせいか妙にいやらしい。

 そうだ。どうせなら煙草で火をつけさせよう。

「ほら」と俺は煙草を口に咥えた。

 美静は一瞬戸惑っていたが、椅子から立ちあがった。そして、テーブルの上にのぼって両膝をつき、顔を近づけてきた。すっぴんだが、それでも可愛さは失われていない。むしろ、素朴な感じがして素敵だ。

 煙草を咥えた唇が近づいてくる。きちんと潤っている。貪るには申し分ない。

 煙草の先端同士がくっつく。美静がふっと笑った。俺もそれにつられてにやりと笑った。

 数度耳にした音と共に、突然体に衝撃が走った。そのせいで俺は後ろに数歩下がるはめになった。足に力が入らない。どうした。俺はそう思って腹を見た。血がついている。美静を見やると、彼女はテーブルの上に立って俺を見下ろしていた。俺はいつの間にか、床に倒れていた。

「おまえ」

「うん。暴発しなくてよかった」女は俺がテーブルに置いた銃を持っていた。

「ちくしょう」

「痛いですかね? まぁ、そうでしょう。うん」

「なんでだ。お前も殺し屋か?」

 美静は肩を震わせて笑った。

「それにしても、あなたの推理は滑稽でしたよ。自信満々のあの顔。声に出して笑わないようにするのは辛かったです。そして、今も。なかなか滑稽ですよ。鏡を持ってきてあげたいくらいです」

 なんだか目が霞んできた。くそ。

「殺し屋は複数いると思っていたのに、なぜボディーガードも複数いるかもしれないと考えなかったんですか? 私より頭が良さそうなのに」

 今まで俺が得意げに聞いていた音がまた鳴った。弾が俺の体に入るのが分かる。

「……次は頭です。銃の扱いは苦手なので……外したら申し訳ない」

 女の声でやつはそう言った。


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