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覆面殺人  作者: nab42
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三津崎さんについて

「この島が田辺月次郎に買われ、この帽丘館が建てられた理由だ。俺も月次郎さんとは何度かしか会っていない。それも子供の頃だ。三上さんが言ったように、月次郎さんにも隠し子が三人いた。三人とも女の子だ。二人はもう結婚して、大きな子供がいる。年齢はもう五十過ぎかな。幸せな家庭を作っているみたいだ。最後の一人は、年を取った頃の子でね。隠し子というより、後妻との間に作った子と言った方がいい。正妻はもう亡くなられていたし……。でも、認知はできない。会長がいたからね。件の家訓のせいだよ」

 八屋さんはため息をついた。

「この島とこの館は、その隠し子と母親のために作ったんだ。三人で暮らすためにね。玄関扉を見たかい? 二匹の龍。あれは母親と月次郎さんだよ。そして、壁にかけられた絵画。壺は母親、貝殻は隠し子、満月は月次郎さんを表したそうだ。……もう、何が言いたいか分かるな」

 八屋さんは僕を見た。

「三津崎さんは月次郎さんの最後の隠し子だ」

 月次郎さんの隠し子……。ということは社長の叔母? いや、彼女の母親は妻でもない。彼女も認知されていないのなら、そういうことにはならないか……。でも、血は繋がっているわけだ。

「三人はここで暮らす予定だったらしい。でも、月次郎さんはこの帽丘館が建ってしまう前に亡くなってしまった。残されたのは母と娘。でも、月次郎さんはちゃんとしていたよ。会長と違ってね。月次郎さんは遺言書に二人の世話をするようにきちんと書いていたそうだ。それで二人は何もせずに暮らせた。ここでね。でも、月次郎さんを追うように二年後に母親も死んでしまった。残ったのは小さい三津崎さんだけだ。もちろん一人では生活できない。彼女は養子に出されたよ」

 八屋さんがテーブルを指で叩いた。

「彼女がここへ戻ってきたのは高校を卒業してからだ。彼女はどこにも馴染めなかったそうでね。いじめられたりしていたそうだ。そして、母と父が建てたこの館に住もうと決意した。お金は、田辺家から貰おうとしたって言っていたよ。もちろん彼女は月次郎さんが生前に残したお金をたくさん持っていたみたいだが……。それでも、ずっとは生活できないからな。でも、田辺家は彼女の願いを断った。田辺家というより、会長の雪定が断ったんだ。彼女には認知請求する権利がなかったからだろうね。もう月次郎さんが亡くなって何年も経っていたんだから。父の遺言で世話するように書かれていたとしても、自分に関係がなかったしね。そういう人だったんだよ。それに対して、三津崎さんには何もできなかった。細々とここで暮らしていたそうだよ。三年くらいはなんとか暮らせたらしいよ。でも、お金は底をつきそうだった。で、どうしたと思う? もちろん三津崎さんはどうもできない。どうかしたのは雪定の方さ」

 八屋さんから怒りを含んだような声が出た。

「あいつは金をやるから、ここをリゾート地にしたいって言ったんだ。だからこの島の権利を渡せとね。根っからの悪物だよ。あいつは」

「でも、この島はリゾート地になっていませんよね?」城木さんが聞いた。

「ああ。そこで彼らの間に入った人がいる。定一郎だ」

「へぇ」城木さんは驚いたようだった。「でも、どうやって解決したんですか?」

「雪定がこの島に視察に来たとき、定一郎も一緒に付いてきた。あいつはどこにでも行きたがるからな。そして、三津崎さんと出会った。運命の出会いさ」

 運命の出会い?

「定一郎は恋に落ちた。見ていて分かったよ。そして、三津崎さんと恋仲になった」

 僕にさっきとは違う衝撃が走った。

 社長の恋人……。社長の恋人って三津崎さんだったのか。

 僕は花澤さんを見た。彼女は僕と目が合うと、視線をはずした。

 もしや、知っていた? 花澤さんが僕の告白の時に見せたぎこちない笑顔はこのせいか?

 そういえば、あの違和感。三津崎さんは社長のことを「あの人」と呼んだ。あれは恋人のことを呼んでいたのか。

 あと、服だ。八屋さんは社長も赤いTシャツでこの島に来たのかどうか聞かれて、「たぶん」と返した。それはもしかして、社長が私服でやってきて、その服が三津崎さんの荷物に紛れているかもしれないってことだったのか?

「定一郎はこの一件を任せてくれと言ったよ。雪定は何も言わずに任せた。島をリゾート地にするって、これはそんなにでかいプロジェクトじゃなかったんだよ。だから任せたんだ。むしろ、どうでもいいと思っていたのかもしれない。彼にとって小銭稼ぎのようなものだったのかもしれないし、土地が欲しかっただけなのかもしれない」

「それで?」三上さんは真っすぐ八屋さんを見た。「それでどうしたんだ?」

「どうもこうもないよ。俺が知っているのはそれだけだよ。あとは、社長がこの館を少し変えたくらいかな。それも会長に言われて仕方なくってところだよ」

「このパーティーの理由は?」

「これも正直言って仕方なく開いた催しだよ。今回は会長の隠し子探しのために使われたけど、それ以前はスポンサー探しと言う名目で行われていた定一郎の趣味の会さ。幼馴染の俺から言わせてもらっても、変な趣味だとは思うけどね」

「この館のどこを変えたんですか?」僕は聞いた。

「主に二階だよ。客室を作ったんだよ」

「あとは?」

「リビングをラウンジにしたな」

 ラウンジがリビングだった。――あ、だからカウチソファがあったのか。

「色々と変えたせいで、変な館になってしまったんだよ。そこは定一郎も謝っていたよ。いつか元に戻すってね」

 八屋さんは少しだけ微笑んだ。社長と三津崎さんのことを思い出しているのだろうか。

「これが僕の知っていることの全てだ。もう何も話せることはない。それで、誰か社長を殺した犯人は分かったのかな? 三津崎さんを殺した人も。分からないだろうな。もう……。ダメだよ」八屋さんは顔を両手で覆った。喪失感。それが彼のまわりに漂っていた。

「確かに……。それはヒントにはなりませんね」と城木さんは腕組みをした。

 三上さんは何かをぶつぶつと呟いていた。

 花澤さんはテーブルを見つめていた。

 美静さんは僕らの顔を順繰りに見ていた。

「うん。話してくれたことはヒントにはならなった……。ただ、犯人は分かりましたよ」

 僕はその声の主を見た。

 城木さんはゆっくりと腕をほどいた。

「まず社長を殺した犯人を発表します」


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