14.5
「あの神子殿は、危ういですね」
オニキスの言葉に、オブシウスは無言で肯定した。
ウィステリアの部屋を出たオブシウスは、まっすぐに義父のもとに向かった。もとよりその手筈だった。
領主からの問いかけでは、言いにくいことも多いだろう。オブシウスが残って、ウィステリアの本音を引き出す。
その上で、スピネルの処罰には双方遺恨の残らないよう調整するつもりだった。
「自分が損をする方向で物事が済むなら、それでよいと考えているのでしょう」
想定していたのは、謹慎か、行儀見習いや修道女として家から出すか。そのあたりだった。
だが、ウィステリアが望んだものは何もなかった。
あの時、オニキスは娘を案じる表情をあえて見せた。それに引きずられた答えだとも思えたが、オブシウスの話を聞く限り、色々と考えたうえでの返答らしい。
だからといって、そんな勝手なことをすれば、彼女の立場を悪くしかねないのに。
「こんなことになるなら、シトレンには神子の派遣要請も頼むべきでした」
神子は戻るつもりのようだが、このまま戻すのは危険な予感がした。
聖国といえども、思惑と駆け引きで満ちている。そんなところに頭一つ分とび出せば、方々から叩かれるものだ。
良かれと思って事前に使者を向かわせたが、逆効果になった可能性すらある。後ろ盾を得たと刺激したかもしれない。
「今しばらくは、神木の様子をみるということで留められるでしょう」
「女王陛下も、礼の使者が神子殿に悪影響を及ぼす本意ではないはず。お伺いを立ててみることにします」
女王陛下は冷酷な判断を下せるが、決して残酷な方ではない。恐らくオニキスたちの懸念に理解を示してくれる。
聖国まで馬ではひと月はかかるが、船を使えばかなり短縮できる。
許可さえ下りれば、そう間を開けずに再び聖国に働きかけられるだろう。




