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(これはいったいどういう状況なのかしら……)


 ウィステリアは、ベッドの上で人知れずため息をついた。



 無理をした反動で高熱を出し、ウィステリアは昏睡状態に陥っていた。

 目覚めた瞬間、重い体とは裏腹に、世界が明るく輝いて見えた。うっすらと陰っていた視界が開け、ようやく自分の人生を生きれるのだと思った。

 後は物語の修正力がないことを信じて、目立たず静かに過ごそう。



 ――なんて考えていた。



 冷や汗を流しながら、横目で彼らを見る。

 そこには、貴族然とした壮年の男性が深く頭を下げている。その後ろでは、オブシウスもまた同じようにしている。


 壮年の男性には、見覚えがある。

 ウィステリアは儀式の前日から、多くの人と引き合わされた。王族、領主、貴族、有力な商家など。

 そのうちの一人だろうと思われる。


 しかしながら、前日の夜からのごたごたで、あの頃の記憶は霞がかかるように曖昧だった。まして、その後は十日以上も寝込み、起き上がれるようになるにはさらに数日。

 正直に言えば、ウィステリアは何も覚えていなかった。


 気まずい沈黙が流れる。

 破ってくれたのは、オブシウスだった。


「義父上、神子殿が困っております」


 オブシウスの言葉に、壮年の男は頭を上げる。

 彼が義父と呼ぶ人はただ一人だ。

 交易都市アルセリアの領主であり、オブシウスとスピネルの父親。名を、オニキス・ディ=カーネリアン。


「突然失礼しました。スピネルのしたことは、お詫びのしようもございません。つきましては――処罰についてご要望があれば、最大限取り計らいましょう」


 言葉だけなら厳格な領主のようだが、その表情にはわずかに痛みが浮かぶ。

 だからこそ、ウィステリアは返答に窮する。


「私から望むものは特にありません」

「しかし……」

「むしろ、子どものしたことです。彼女は何なのかも知らなかったのです。寛大な措置をお願いいたします」


 ウィステリアがそう言うと、二人そろって難しい表情になる。

 でも、そうとしか言えない。


 厳罰をと言えば、彼らは受け入れるだろう。ただし、きっと心証は悪くなる。曖昧なことを言って、意図しないことを汲み取られても困る。

 ここは、何も望まないのが無難な選択だ。


 残念ながら、本心ではないと思われたらしい。言葉を変え、聞き方を変え、同じ問答が繰り返された。


「神子殿も本調子ではないでしょうから、今日のところはこの辺で」


 見かねたオブシウスが止めに入らなければ、まだしばらく続いていたことだろう。



 オニキスが部屋を出ていくのを見送った後、ウィステリアはクッションに体を預けた。

 なぜか部屋に残っているオブシウスが、躊躇いがちに口を開く。


「体調はどうだ?」

「おかげさまで、もうすっかり良くなりました」

「体力が戻るまでは、無理はするな」


 それだけ言うと、黙り込む。

 残った理由があるのだろう。ウィステリアから話すことはないので、静かな時が流れた。

 やがて、オブシウスが躊躇いがちに口を開いた。


「本当にいいのか?」

「先ほどの件ですか? ええ、かまいません」

「だが、一歩間違えば死んでいたぞ」


 儀式を成功させなければ、どのみち死んでいたとは、さすがに言えない。

 それに、また堂々巡りになるのも避けたい。ウィステリアはあからさまに話を逸らした。


「この件は、表向きには不運な事故だった。ということにしたのではありませんでしたか?」


 無用な混乱を避けるために、窃盗事件はなかったことになった。

 窓際に置いていた袋を鳥が持っていき、気づいたスピネルとコニーが追いかけたことになっている。

 本当のことを知り得る者たちには、口止めがしてある。


「領主にまで真実を伏せるわけにはいかないだろう」

「それは、確かに……そうですね」


 一言で納得させられる。


「望むなら、できる限り沿うと言った言葉に嘘はない」

「本当に、必要ありません」

「本心か?」


 ウィステリアはそっと視線を逸らした。


「私は、宵の国の内政に口を出す立場ではありませんから」

「……なるほど」


 思うところがないわけではないが、ウィステリアは正直、この件に関わりたくはなかった。

 一歩間違えば、この件を口実に聖国が手を伸ばしかねない。それを許せば、この国に無用な混乱を招くことになるだろう。


 ここで過ごした日々を思い返す。色々あったが、決して悪くはなかった。だから、きれいな思い出のままで残しておきたい。

 ふいに笑みがこぼれる。


(立つ鳥跡を濁さず、っていうものね)


「承知した。せめて、極力顔を合わせないようにはする」

「そんなことをしなくても、かまいません。そんな機会はないでしょうし」


 オブシウスの視線を受けて、ウィステリアは首をかしげる。


「どのみち私は、もうすぐ聖国に帰るのですから」



 それは、至極当然の帰結だった。

 ウィステリアに与えられた任務はここまで。終わったのであれば、帰還しなければいけない。


 ――それなのに、どうしてこうなったのか。

 オブシウスに引き留められ、オニキスに説得され、コニーには泣きつかれ、シトレンやアデルからはお願いされる。


 そうして、スピネルの処分に関する話は煙のように立ち消えてしまった。

 その代わり、ウィステリアの帰国の引き留めという問題が立ち上がることとなった。


ゆっくり更新になります。

できるだけ週1~2で投稿をと考えています。

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