第九十八話 嫌悪感
「よかったらさ、もっと楽しい場所に連れて行ってあげる」
「大丈夫です」
はなはそうきっぱり断った。
ピンクのウルフ髪の男は、特段がっかりした様子もなく、そっかぁ、と言った。
はなはみもの手を取り、その場を離れた。
「なにあいつ。
キモくね」
「うん…お兄ちゃんが最近誘拐?流行ってるから気をつけてって言ってた」
「ふーん」
「てか、私が誰かわからず話しかけてきたわけ?」
うざっとみもは吐き捨てた。
「あれ?みも?
はなちゃん?
「あおい…」
「こんにちは、あおいさん」
は?あおいと知り合いなの?
みもは、はながあおいと知り合いだったことに驚愕した。
「あ、うん。
お兄ちゃんの友達なんだって。
最初びっくりしちゃった!」
「みもとクラスメイトだったんだ!」
そんな繋がりあったなんて。
あおいも驚いた顔をマスク越しに浮かべてて、鬱陶しい。
というか兄と友達ってなんだよ、付き合ってるとかじゃないの。
スキャンダルとか絶対やめてほしい、うちらの活動にも支障出るし。
きもい、全部。
「あれ、みも、どこに行くの」
「帰る!」
あおいとはなに背を向け、一刻もはやく離れたかった。
だるー、ほんと。
「いたっ」
勢い余って転んでしまった。
痛い。
かなり腫れ上がってる。
「あーもうやだ」
「大丈夫?」
「あ」
さっきのピンクの男。
男は鞄から消毒剤などを取り出し、手際よく手当てする。
「え、なんなの?」
「僕医学部なんだよね」
「へー…」
「これで家に帰れるでしょ。
帰りな」
「え…ありがと…」
「どういたしまして」
男はそう言い、立ち上がりスタスタと歩き始めた。
「ねぇ待ってよ」
「?」
「楽しい場所ってなに?」
「んー、君みたいなかわいそうな子が綺麗になれる場所?」
「綺麗?」
「うん、誰よりも綺麗に魔法かけてあげられる場所」
「へー…」
エステかなにかの勧誘かな、とみもは思った。
「ねぇねぇ、あおいよりもかわいくなれる?」
「君は君。
あおい?よりかわいくなる必要ないでしょ。
でも、君の魅力を1番引き出してあげられるよ」
「どうやって?」
「君ってさ、まずパーソナルカラーに合ってないんだよ、イメージカラーが。
まず君に合ったカラーや骨格に合った衣装を作ってあげるよ」
「パーソナルカラー…」
「そう。
あおいって子は水色や青が似合うんだよ、1番。
でも君は別にオレンジ似合ってないから」
「そうかな…」
「だから、君をより引き立てられるものを提案してあげられるよ」
「なるほど」
「人ってのは、視覚から入るものが全て。
SNSだってそうだよ、色の統一したアカウントとかあるでしょ?」
「あおいって子は自分に似合うメイク、ファッション、カラー全てを熟知してるんだ。
君があおいに勝てないのはそれだよ。
誰も教えてくれなかったの?
芸能人なのにね。
やっぱりかわいそうだよ、君は」
「じゃあ教えてよ。
あおいの勝ち方」
「いいよ。
君に魔法かけてあげる人、教えてあげる」
みもは日向の差し出す手を取った。
—————
「え?
みもがきてない?」
「珍しいよね。
レッスンサボるの」
「………」
昨日みもが去った後。
はなから変なピンクの髪の男に声をかけられたと、言っていた。
「まさか………」
あの時の、バスを運転していた男ではないだろうか。
あおいはそう思った。
「みものこと、心配だから家行ってみる!」
「えー、そこまでしなくても、ってはや!」
あおいはレッスン室を飛び出して、こうきに通話をかけた。
「あ、やっと出た!
お前今どこ!?」
『だ、だってどう出ればいいかわからなくて…
猫カフェにいるけど…』
「今すぐ来い!」
————-
「蜜樹ちゃん、この子に化粧してあげて」
「はいはーい、…て」
蜜樹は驚愕した。
あおいの所属するペリドットのメンバー最年少のみもが目の前にいるから。
「(かわよ!!!!!
顔小さ!!!!)」
「あのさぁ、さっさとしてくれる?おばさん」
「(性格悪くて泣いた)」
こんな子だっただなんて…蜜樹は内心泣きながら、みもの髪にヘアピンをつけた。
「おや、蜜樹ちゃん。
メイクしてあげるんですね」
「梅さん、えーはい、そうです…」
梅の美容外科にはメイク用品が揃っているので、日向はまず美容外科に連れてきたところにたまたま蜜樹がいたため押し付けられてしまった、という形だ。
梅はみもを見て、興味がなさそう去ってしまった。
——梅さん、珍しいな。
いつもなら、美しい〜!とか言って騒ぎそうなのに、と蜜樹は疑問を持った。
「ま、いいや…
上向いて」
……………
「はい、できたよ」
「おせーんだよ」
まじで泣きそう。蜜樹はあおいの所属するメンバーの性格が悪いことを嘆いた。
「ねぇ、トイレどこ?」
「あぁ…ここ出てまっすぐです」
「はぁ…」
いやため息つきたいのはこっちだわ。
と蜜樹は内心ムッとしながら、化粧道具を片付け始めた。
「少し調べたんですけど…
アイドルなんですよね、あの子」
「みたいだね。
知らないけど」
「同じグループの子に嫉妬向けてるんですね。
私からしたら、同じアイドルグループでしかないんですけど」
「………」
「ライバルグループより、秀でたい。
グループを有名にしたいから綺麗になりたい。
そういう思考にならないんですかね?」
「ならないでしょ、自分大好きなんだから」
「同じ作品を届けるメンバーを疎ましく思う、醜い子だ」
「………」
「あんな見た目も中身も醜い子、いらないですよ。
今すぐミヤコさんを呼んでください」
「わかった」
なんなの、あの男たち。
なんで私のことあんなに言ってるの?
許せないんですけど。
言われなくてももう出てくし、最悪!!
そう思い、出口へ向かおうとしたが、怪我した足がもつれ転んでしまった。
「聞いてましたか?」
「あ…」
梅は転んだみもをまるでゴミを見るような目で見下ろした。
————-
「もしかしたら、ここにいるかな…」
「ここ…梅の病院…
来たことあるの?」
「あぁ、一回だけ…
ここに、みもいるかな…」
「ま、待ってよ、あおい」
堂々と入り口から入っていくあおいに、こうきは慌ててついていく。
「あ」
「え!!?」
「か、金鞠…元気そう…!
よかった」
鞄を持ち、帰ろうとしてた蜜樹とあおい、こうきが鉢合わせした。
「え、お兄さん誰…?」
「…僕だよ、金鞠。
こうきだ」
「え!?
あの仮面の!?」
「お前、どれだけ仮面外してなかったんだよ」
「こうきちゃん、どうして…あおいちゃんも…」
「え、と…みもがいないか探しにきたんだ。
お姉さん、なんか知らない?」
「あ、あ、
そう、ですよね…!
みもちゃん、奥にいるけど…」
「そっか…!ありがとう、お姉さん、元気そうでよかったよ…」
「い、え、あたしを覚えて………!?」
「とにかく、ありがとう。
こうき、行くぞ!」
「あ、うん…
金鞠…また来るよ」
「あ、うん………」
「こうきちゃん、仮面つけてるときと全然違うじゃん…」
蜜樹は呆然とした。
あおいとこうきが奥に進むと、日向と梅とみもが3人でいる部屋を見つけた。
2人はこっそり隠れ、会話を盗み聞きする。
「はぁ…」
「梅くん、そんなため息つかないでよ」
「つきますよ。
こんな醜い子をよくも運ばせましたね」
「ごめんって。
ミヤコちゃん今日来れないってさ。
別の検視が溜まってるからって」
「なんですって?
……はぁ……
じゃあ、私がやりますか……」
「なに、するの………?」
寝台にベルトをつけられ、みもはつぶやいた。
「君、お酒やタバコはやってないでしょうね」
「やってるわけないでしょ!」
「あぁーよかったです。
これで内臓まで汚れてたらと思うと、ゾッとします」
「あおい…あの子の臓器売る気だ…」
「わかってる…行け、こうき!」
「え!」
あおいに押され、こうきは入り口で転んだ。
「え………こうきくん」
「なにやってるの?」
「〜〜〜〜!!
と、と、とと止めに来た…!」
「あ…はい」
「あおい…あの子の臓器売る気だ…」
「わかってる…行け、こうき!」
「え!」
あおいに押され、こうきは入り口で転んだ。
「え………こうきくん」
「なにやってるの?」
「〜〜〜〜!!
と、と、とと止めに来た…!」
「あ…はい」
いきなりのこうきの登場でさすがの梅や日向も呆然としている。
「戻ってきてくれたんですか、こうきくん」
「ち、違う!」
こうき…なにやってんだ!
あおいは唇を噛み締めた。
「久しぶりに会えて嬉しいです」
「っ僕は嬉しくない…!
金鞠に、酷いことしてないだろうな…!?」
「したことないですけど」
「どの口が…っ」
あおいは陽翔たちにメッセージを打った。
「今からこの醜い子、売っちゃうので」
その言葉を聞き、あおいの手が止まった。




