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第九十七話 みも



楽屋で財布が盗まれるなんてことはわりとしょっちゅうある。




「あんたでしょ。

取ったの」




「違うよ」




たった今、オレは濡れ衣を着せられている。

そんなせこくねぇし!




アイドルグループPeridot(ペリドット)に所属してる、私美少女あおいちゃん!

メンバーに今財布を盗まれたっていう疑念を持たれちゃってるの!

ヒーローのあおいちゃんがそんなことするわけないのに!




「いいからさっさと出せよ!」




カツアゲ構文じゃん、逆に!




「ほんとにやってないよ。

鞄の中見て?」




メンバーの1人、みもはあおいの鞄をひっくり返し、バサバサっと荷物を床に投げ出した。




「ないでしょ?

謝ってよ」




みもはあおいの言葉を無視し、あおいの私物である手鏡を踏ん付け、楽屋を出て行ってしまった。




「はー、まったく」




他のメンバーは気にする事なく、スマホをいじっている。




急いで着替えをし、空気の悪い楽屋を出た。




「お疲れ様」




「おつかれぇ」




こうきを連れ出し、新作のフラペチーノの飲みにきた。

じゃないとやってられん。




「こうきなににした?」




「ほうじ茶」




「渋」





じーっとこうきが見つめているのに気がついた。




「かわいいからってそんな見るなよ」




「あ、いや…

知り合いに、あおいのファンだった子がいたんだ。

元気でやってるかな〜…って」




「え、女の子?

かわいい?」




「うん、すごく愛嬌があって可愛らしい子だったよ」




「まじか、やったぁ!」




「……元気、だといいな」




最近会えてないのかな。


こうきは俯いてしまった。





「そうかな?

アイドルならみんなそうするよ」




「そうか…

あ、あのね、僕、スマートホン買ったんだけど、やり方わからなくて」




説明書が読みづらいし…と、こうきは小さな薄い冊子とスマホを取り出した。




「おまっ、今どき説明書とか!」



「だ、だってわからないんだからしょうがないだろ!?」




「い、今はメールじゃなく、ラインなんだね…」




「お前今までどうやって…」




「電話だよ」




「で…そっかぁ…」




「す、すごい…!

スマートホンで、インターネットが使えるのか…!?」




「お前まだZ世代だよな?」




「大学入りたてに買ってみたけど、性に合わなくてすぐ折りたたみ携帯に替えたんだ…

そっか…こんな機能があったんだ…」




「なんでもできるよ、今は」





「!?

ぐ、Googleも使える…!

Googleで検索をするの、「ぐぐる」、って言うんでしょ?」



「おぉ、ご名刀!」




「わぁ…」




「なに調べてんの」



「ぺ、ぺりどっと?

あおいのグループ…

最近のアイドル名は、ハイカラなんだなぁ…」



「ハイカラ…」




新作のフラペチーノはちょっと甘さが足りないな。

あおいちゃん的にはもー少し濃厚なのがよかったな。




「!

あおいは追加メンバーなのか」




「そだよー」




「そうか…追加なら色々大変じゃないか?」




「んーまぁね。

うちは特に初期メンの結束強いし」




「そうなんだ…」



「でもそらそうだよ。

立ち上げから共にしてきたんだし」




メンバーというか、戦友みたいなもんだよな。





「初期メンが頑張ってくれたおかげでオレも最初からメディア出れたし」




「わりと有名なんだね。

テレビとかも見ないからあまりわからないけれど、たまにポスターとかで見るよ」




オレが加入に反対だったのは、オレンジ担当のみもだったなぁ。




「なんかさぁ、オレの前の青担当がやめちゃって、メンバー足りないからスカウトされたんだ」




「そうなんだね…」




メンバーはオレが男なのも、21歳なのも知らない。

みもも当然知らないとは思うけど、直感だったんかな…。




————-




「なんであんなブサイクが人気なの?」




自転車を漕ぎながら、みもはつぶやいた。




「まじはやく出てってほしい」




「みもー!」




「はな」




「こわい顔してどうしたの?」



「なんでもねーし」




「?そう?」




同級生のはなが話しかけてくる。

はなは学年の中でもかわいい顔だから仲良くしてる。

本当それだけ。




みもはTikTokを開くと、真っ先にあおいの顔が画面に映り、すぐスワイプした。


本当はブロックしたいけど、ファンがうるせーからな。




メンバー最年少で頑張って健気な妹を演じ続けるのは疲れる。

こうしてかわいいだけで、なんのおもしろみもない子と仲良くして体裁を保つのも、もうだるい。




「はな、新作のフラペチーノ買ってきて」




「え?どうして?」




「友達が疲れてるって言ってんの。

たまにはいいじゃん」




「う、うん…わかった…」




それくらい気使えよ。




「あーあ。

なんか楽しいことないかな」




はなは好きな男の子や飼い犬や家族の事しか話さない、本当かわいいだけで一緒にいても楽しくない。




はなとのLINEを開いても大した話題はない。

写真フォルダを開き、はなが好きな男の子の写真を見る。





「こんなののどこがいいかわかんない」




性格悪そう!

そうつぶやいたときだった。




「あれ?

ゆうりくんだ」




「ひ!?」




後ろから話しかけられ、みもは驚いて振り返った。




振り返ると、ピンクのロングウルフの男が見下ろしていた。




「だ、だれ…?」



ファンの男…?




「なんだかかわいそうなオーラ出てたから、話しかけちゃった」



「は」



「みもちゃーん!


だれ?その人」




「ん………?

どこかで会ったかな、君」




「?ないと思います」




「そっかぁ」




「は、知り合い?」



「う、ううん………」




「2人ともかわいいね。

よかったらさ、もっと楽しい場所連れて行ってあげる」



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