第九十六話 妹
「はぁ……」
蜜樹は深いため息をついた。
ゆうりもこうきもいなくなってしまった。
あんなに賑やかだった部屋に、2人はもう戻ってこない。
「寂しいなぁ…」
蜜樹は専門学校の教科書を開くが、全く内容が入ってこない。
なぜかミヤコからは嫌われているし、日向ともあまり話さなくなった。
「ゆうりちゃん…」
弟のように感じていた。
からかえばいつも反応してくれるかわいらしい側面を持った子だった。
こうきはいつも話を聞いてくれていたし、悩みを共有できる相手だった。
まさに兄のような存在だった。
「帰りたい…」
無性にパパとママに会いたい、そう感じた。
蜜樹はあおいのSNSを眺めては画面を閉じ、また開いては閉じを繰り返した。
机に突っ伏し、また大きいため息をつく。
「…なにをしているの」
「あっ」
入室してきたミヤコに、珍しく声をかけられ慌てて起き上がる。
「え、いや…
なんでも、ないです」
「ふーん…」
ミヤコは興味がなさそうに返事をし、隣に腰掛けた。
今日は機嫌がいいのだろうか。
いつもならあからさまに離れた席に座るのに。
「ねぇ」
「え?」
「あなた、おいくつ?」
「え…19…」
「あら…」
「………?」
「妹が生きてたら、それくらいだわ」
「あ、そうなん、ですか…」
「貴方大人っぽいから、とっくに成人してるかと思ったわ」
「そうですか…」
「日向とも同い年なのね」
「そう、ですね…」
「いいわね。
まだまだじゃない」
「あの…どうしたんですか…?」
「なにが」
「いや、いつもほら、あたしを避けるのに」
「ええ。
嫌いだからね」
「あぁ……」
でも、とミヤコは付け足した。
「年齢を聞いたら貴方に嫉妬して勝手に嫌ってたいたのが、馬鹿馬鹿しくなってきたわ」
「嫉妬…?
どうして」
「なんでかしらね」
ふふっと、ミヤコは笑った。
なんて綺麗な顔なんだろう、と蜜樹は思った。
「なんか…柔らかくなりましたね…」
「あら。
そうかしら」
「はい、前はもうちょっとツンツンしてたっていうか」
「あら…ごめんなさいね」
ミヤコは蜜樹のスマホを見て、それ新しい機種?と尋ねた。
「あ、そうです
最近替えて」
「…私の妹も、最新のよく欲しがってたわ」
お下がりで我慢しなさい、ってよく姉と言ってたわ。とミヤコは寂しげに語った。
「え、お姉さんもいるんですか?」
「ええ」
「三人姉妹?」
「そうだったわね」
「…?」
「妹は…百合に食べられてしまったわ」
「え、あ………」
蜜樹はなにも言えなくなり、目を泳がせた。
「ふふ…
私の命の恩人が、私の妹を食べた人と恋人であり、主従関係にある………
地獄だわ」
「そんな…………」
「いいのよ。
ねぇ、蜜樹」
「は、はい」
「私も新しいスマホがほしいの。
膨大なデータが入る。
一緒に買いに行ってほしいのよ」
「え………いいんですか?」
「もちろん」
「データが膨大…って、多分結構高くなると思うけど」
「あら、私は倹約家なの。
こういうときのために、お金は貯めているわよ」
お金くらいもらわないと、百合の命令なんて聞きたくないもの。
と、ミヤコは語った。
「わ、わかりました。
いつ、行きます?」
「今から行くわよ」
「え!
今から?」
「時は金なり」
「はぁ…わかりました…」
ミヤコはすぐ立ち上がり、コートを羽織った。
慌てて蜜樹も支度をする。
数時間後。
無事スマホを購入し、カフェに入店した。
「綺麗だわ、画面が…」
「めっちゃ高かったですね…」
「ふふ、その分なんでもできるわね」
ミヤコはそう言い、笑みを浮かべた。
「…………やだ、これ防水機能あるわよね?」
「………最新だし、大丈夫ですよ、きっと」
「だと、いいわ」
ミヤコは肩を振るわせ、しばらく画面をずっと見つめていた。
蜜樹は甘いものでも食べましょ!と言い、ケーキを注文した。
ミヤコは震える手でスマホを置き、ありがとうとつぶやいた。
「これじゃあ、どっちが歳上かわからないわね」
「それもまたいいじゃないですか」
「それもそうね」
ミヤコと距離が縮められ、蜜樹は久しぶりに嬉しいという感情が湧いた。
「ふふ、妹とまた会えたみたい」
そうミヤコは満面の笑みを浮かべた。




