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第九十二話 必要なこととは





一緒に困っている子を助けようと勝に言われ、はや数日。

警察署の一室でアザミは苛立ちを隠せず、勝を睨みつけていた。




「なぜ承諾を」




「だ、だって…」




アザミの怒りをひしひしと感じ、ラナは困惑した。




「まぁまぁアザミちゃん。

ラナちゃんを責めないで…」




「誰のせいですか」




「すみません」





もはやどちらが上司かわからない状況だ。




「でももうこの組織のことを知ってしまったからには、やってもらう」




「はい」





「全く!」




アザミは大きいため息を吐き、でも、と口にした。




「ラナが19でよかった。

もっと歳下だったら…

なんでもない」




「いい、ラナ。


この組織は、若い女性を誘拐、人身売買、斡旋をしてる。

斡旋先はもう特定している。


この子たちを、保護するのが優先よ」





「どうやって…」




「潜入してもらって仲良くなってもらうのが、自然といくかと思うけれど…」




アザミは徐々に声が小さくなっていく。





斡旋された先に潜入し、自然と仲良くなり保護をしてほしいというわけだ。

たしかに、ラナの年齢容姿があれば潜入自体は簡単だけど…とアザミは口篭った。





「仕事は回さないよう、スタッフ側として行きなさい、その方がいいだろう」




「わかりました、やります」




ラナは2つ返事で承諾した。

勝の黒服として潜り込む作戦ならなんとかなるだろう、とラナは思った。




「なんで女の子をそういうところで働かせるんだろう…」




女の子を手足のようにしか考えていないのだろうか。

ヒナノの担当もそうだった。





鶯谷にラナは降り立ち、指定された店へと出向き、無事黒服として採用された。




街や店は独特な雰囲気を放っており、重苦しい気持ちになった。




働き始めて数週間、街全体は閑散としてしているのに店は活気づいていた。




「あのぉ…」




「なんですか?」




「なんで、このお店ってこんな繁盛してるんですか?

街は誰も歩いてないのに」




「女の子たちが頑張ってくれてるからですよ」




女の子たちが毎日頑張って接客をしているからだ、と黒服の男性は言った。




「こんなにたくさん店がある中、うちを選んで働きにきてくれてるんです。


だからお茶は絶対引かせません」




「なるほど…」




そういう観点もあるのか。

どうやら、集客は店、接客するのは女の子というスタンスらしい。





「うーん…」




女の子たちは仕事がない間、待機室と呼ばれる部屋で談笑したり食事を摂ったりしており、正直黒服が入っていける雰囲気ではなかった。



女の子がそもそも黒服を警戒しており、ましてや女性の黒服となると、ますます怪しんでいるように見えた。





「………よし」





「おはようございまーす」




「え」




待機室に入ってきたラナを見て、何人かが凝視した。




お前黒服じゃないの?と。




ラナは今キャバクラ時代のドレスを身に纏い、完全に同じ側に立つことを決めた。




しかし、ラナ自身仕事が入ると困る。

なぜなら仕事が入り、助ける女の子とすれ違いになると困るからだ。




店側に女の子に近づきたいからと言うのもおかしいと思われてしまう。

ドレス姿で、なにかできることはないだろうか?

とラナは一晩考えた結果、メンタルサポート役に徹するのはどうだろう…と考えついた。




この業界は病みやすい女の子が山ほどおり、黒服は男性が多いため、なかなか店の愚痴を吐ける子は少ない。

少しでも愚痴を吐ける環境をつくってあげたい、店をよりよい方向にしたい。

その代わり、雑用全てをやるから、と言うと、店長は承諾をしてくれた。




ラナは散らかった待機室を整理し始めた。

女の子たちは最初不思議そうにラナを見つめていたので、「なにかあったら言ってね」と、声をかけるとすぐ談笑し始めた。





「おはようございます」




「あ、おはよう」




あの子が斡旋された子だ。

たしか源氏名はわかなさんだったかな。




「わかなさん、予約ありますよ。お部屋案内するね」





「本当?やったぁ!」




わかなは明るく自身の荷物カゴを持ち、ラナについてきた。





「えーと、今日から接客もするのぉ?」




「ううん。

ドレス着てみたかったなー、なんて」




「えウケる」





準備できたらコールするねーと言われ、ラナは部屋をあとにした。

なんか思ったより明るいな、とラナは感じた。


実際待機室にいた子たちも写真を撮りあったり、仕事に意欲的だと感じた。




2時間後、わかなは接客を終え、コールをしてきた。




「お腹空いたから出前取りたい!」




「はいはい」




「ラナも一緒になんか食べるー?」




「大丈夫だよ」




「じゃあラーメン2つね!」




全く話を聞いてないじゃないか。




頼んだラーメンが届き、ラナはノックをした。




「わーやったぁ!

最近ハマってんのさぁ、これ!」




「はいはい、伸びないうちに食べてね」




「ラナのは?」




「下にあるよ」




「持ってきてさぁ、一緒に食べよ!

その後写真撮ってよ!」




はいはい、とラナは言われるがままラーメンを取りに行き、わかなと向かい合った。




「いただきまーす!」




異様にポジティブな女の子たちだなぁ、と感じた。

黒服も仕事に没頭しているようだし、プロ思考な女の子が集まるのかな、と思った。





「なんでわかなはこの仕事始めたの?」




そう聞くとわかなは箸を止め、ジッとラナを見つめた。




「上京して、お金なかったから」




「そっか」




「ラナは?」





「私も、お金なくて」





「なにに使ってんの?

ホスクラ?」




「違うよ、わかなは?」




「貯金だよ貯金」




「最初はさ、かわいいかわいいって言われてさ。

でもそう言ってくれた人はさ、もっと美人でさ」




「うん」




「整形したくてさ…でもお金ないって言ったら、ここ紹介してもらったんだよね」




「私さ、人にかわいいって言われたことなくって。

でも街でそう声かけられて、ぜってー嘘つかれてんだろって思った」




「うん」




「でも、綺麗になるためにボトックス打ったりしてくれて、てか上京てか家出だったんだけど。

こんな私を保護してくれてびっくりした」




「………」




「最初はこんなんできるかって思ったけど…

頑張ったら頑張っただけ、お客さんもかえってきてさ…

店長も頑張ってるねって」




「今は、このお店でランカーになるのが夢なんだよね」




そう言い、わかなは美味しそうにラーメンを啜った。




「………そっか」




この子はヒナノとは違う、そう思った。

今は自分主体で動いている。

でも本当にこれでいいのだろうか?



ラナが待機室に戻ると、女の子たちは熱心に写真を撮ったり、ドレスのサイトを見ていた。




「もうすぐで目標本数いくんだよねー」




そう言いながら、営業をかけている子もいれば、もっとかわいいドレスの宣材にしたらネット鳴るかなー?と、アドバイスを求めてくる子もいた。




「ラナ、潜入は順調?」




「はい、順調…ですけど…」




あのお店は、黒服も女の子…わかなも皆プロフェッショナルだった。


皆あの店で頑張っている。

黒服だって、女の子たちを稼がせるために頑張っていた。

その裏には人身売買があることまでは、わからないのだろう。




最初は、流されてきたかもしれないが、わかなや他の子たちも目標を持ち、自主的に動いているように見えた。





「ラナ、いい?

それは洗脳されてるの」




「そう…なのかな…」





ヒナノとは違い、明確な目標を持っているように見えた。

ヒナノは稼ぎたいという気持ち以上に担当に認められたいという承認欲求を持っていた。



しかし、あのお店がわかなたちの目標であり、居場所であるなら、無理矢理保護するのは違うのではないだろうか。





「わかなは洗脳、されてないと思う」




ラナはアザミにそう強く断言した。




「え…」




「他の斡旋された子はわからないけど…

私は、わかなを保護するんじゃなく応援したい」




「わかなが、助けを求めたら助ける…それでいいと思いました。

だから今は…違う子に目を向けましょう」




「ラナ、なに言っているの。

わかなさんは被害者なの」




「たしかに、あいつらに声をかけられなかったらこの仕事はしてないかもだけど…本人が目標を持ってる…」




「ラナ…」




「それに、「今は」って言ってました。

きちんと見切りをつけられてます」




「アザミさんの意見が正しいし、もちろん明らかに洗脳や依存してる子だったら、私も無理矢理助けます」



「………」




「だけど、今のわかなは、自分で目標を持っている。

見守るのが、1番わかなの助けになるかなって」



「他の依存してる子や洗脳されてる子は無理矢理にでも助けます。

だけど、わかなみたいな子にはサポートしていきます」




「そう…

わかなさんには救助が必要ない、というのが潜入調査結果ね」




「助けるなら…きちんと彼女の社会復帰的なことが必要かなって」




「それに…まずはわかなを斡旋した奴をなんとかしましょ。

そしたら被害者も減るかも」




「………そうね」




「わかなを斡旋した人って、誰なんですか」




当然、組織内の主要メンバーだろうとラナは考えた。




「…この男の可能性が高い」




アザミは写真を取り出し、ラナに見せた。

見覚えのある顔だ。




ヒナノの担当ホストが、その写真には映っていた。

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