第九十一話 本屋
「特殊部隊にだよ」
その言葉を聞き、アザミは激昂した。
「ダメです。
あの子には荷が重すぎる」
「確かにな。
けど、上がもう黙っちゃいない」
国からこれ以上少子化が進むといけないから、という理由でこの特殊科は設けられた。
「俺もアザミちゃんも、他の操作員も。
選ばれなかった…」
「………」
国からこの特殊科を設けられ、アザミは長い年月を国から投資された資金でデバイスをつくった。
変な人間の手に渡らぬよう、純粋な人間に反応するように、嘘発見機や脈拍数を測る機械などを参考にし、つくったのだ。
皮肉なことに、アザミは選ばれなかった。
「子供にやらせるのはよくないです。
ましてや、警察には一切関係ないのに」
「まあ、それもそうだ…」
勝は思い詰めた表情を浮かべ、ハンドルを握った。
「……とにかく、このデバイスは責任者である俺が保管しておくよ」
「ええ」
もしかしたら、街中で偶然見つかるかもだしな、と勝は乾いた笑い声をあげた。
デバイスなるものをつくったことに最初は難色を示し、適合者が全員見つからなかったらどうする、とまで言われてしまった。
つまり、予算内でなに勝手にやってんだということを言いたいのだろう。
敵組織の母体は海外マフィアだということが判明している。
それに打ち勝てるようにつくったのだ。
「正義感だけあっても、なぁ」
「意味がわからないですね」
「そうだな…」
数週間後
ラナは無事引っ越しを終え、ふーっと新居に寝転がった。
ようやく、キャバクラをやめることができたのだ。
「貯金なくなっちゃった…」
引っ越しってお金かかるなぁ…
などとぼやき、コンビニで購入したパンをひと齧りした。
ベランダに出て、街を見下ろす。
せっかくだし、気分転換にお散歩でもしてみようか。
もしかしたら、明日はコンビニのパンではなく、パン屋さんのパンが食べられるかもしれないのだから。
「美味しいパン屋さんあるといいなぁ」
ラナはピンクのお気に入りの靴をダンボールから取り出し、玄関の扉を開けた。
「…あ」
放課後の男子高校生が自転車で走りながら談笑してるのを見かけ、少しだけ虚無感を抱いた。
本屋を見つけ、なにか面白い本はないかと入店した。
「あ…」
「なんですか?」
さっきの高校生たちと同じ制服だ!と、思わず声を出すと、男の子は気難しそうな表情を浮かべ睨んできた。
英語の本を手に持っている。
「すみません…」
男の子は鬱陶しそうに睨み、レジへと向かって行った。
英語か…全くわからないな…
そういえば、得意な教科も苦手な教科もわからない。
字が読めてることがもはや奇跡なような気がして、自分はなんて空っぽなのだろうか…と悲しくなった。
こんなとこにいても、自分が余計みじめになるだけだ。
そう感じ、本屋を飛び出した。
「ラナちゃん?」
「あ…勝さん」
偶然だね、と声をかけられた。
「なにか買いに来たのか?」
「あ…いえ…勝さんこそ…」
「あぁ、うちは息子が成績悪くてなぁ…
別に勉強が全てとは言わないけど、さすがに…」
10点はないだろ?
と勝は豪快に笑った。
「10点は…たしかにやばいかも」
「そうだよな。
幼馴染の子がここで参考書買ってるらしくてな。
来てみたんだよ」
「幼馴染かぁ…」
孤児院で育ったからには、きっと存在はしてるんだろうなぁ…と思った。
「…ラナちゃんは将来どんな人になりたいとかあるのか?」
「えっ?
…いいえ…」
過去の自分がわからないのに、未来の自分なんかに期待するはずなかった。
………
一緒に、なにかしたかったんだっけ?
あれ、誰とだ。
思い出せない。
「忘れちゃいました…」
「そういうこともあるよな」
アハハ、とまた勝は豪快に笑った。
「………でも………
私、もうヒナノみたいな子、増えないでほしい…
夢とかないけど、それは思ってます…」
ヴーっと、勝のカバンが揺れた。
その反応を見て、勝は決心した。
「ラナちゃん。
君は優しい子だ。
…一緒にそういう子を助けていかないか」
「………え?」




