第九話 適合…?
9話
「そのデバイス寄越してもらえねぇかなぁ?」
「んー!」
ゆうりは仙のみぞおちを肘で思い切りつくと、仙はゆうりの髪をつかみ、
「お前も仙さんに立てつくのか…。
竜胆陽翔みたいに」
「は、はると…?」
「そうだ。あいつ仙さんの美しい顔を殴って、消化器投げやがった。
絶対に殺す」
「陽翔を…、殺す…っ!?」
ゆうりは髪を掴まれたまま、ぐわんぐわんと揺さぶられ、痛みで顔を歪めた。
陽翔を殺すだなんて…
こんなふざけた男にそんなこと、できるのか…?
「だからさ、今いーっぱい色々準備してるわけ。
竜胆陽翔の恐怖に慄く鳴き声、はやく聞きたいぜ」
「陽翔を……殺すなんて、お前みたいな小物には無理じゃねぇか…っ」
「んだと………
なら最初はお前を実験に色々してやろうか」
「な…っ!」
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「牧場で大量に購入しといてよかった」
「陽翔〜、何本飲むんだよ」
「あればあるだけ」
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「やめろ…遅刻するだろ…っ」
「遅刻…?ギャーハッハハ!
命の危機なのに、遅刻を心配なんて!
平和ボケも大概にしろよ!」
ち、違う…!
遅刻なんて、したら…父さんの顔に泥を塗ってしまうことになる。
「ゆうりにもあげてくる、この間一本しか勝ってなかったし」
「俺も行く!
…この間、なんか怒らせちゃってさ」
「それはいつものことじゃん」
「いやまぁそうなんだけど、いつもと違ったっていうか…」
「ふぅん…
あ、ゆうりいる?」
ゆうりのクラスに着き、理数科の女子に声をかけると、今日はまだ来ていないという。
「ゆうりが…」
「「来てない………!?」」
時刻は8時25分。
もうすぐHRが始まる。
例え、風邪をひいていようが怪我をしようが、おかまいなしに、学校に誰よりもはやく来る、あのゆうりが………
まだ来ていない?
「通話してみる」
「ま、まさか事故にでも遭ったんじゃ…!?」
「出ない…
……なんだか、嫌な予感がする」
「陽翔…?」
「ゆうりの家に行こう。
…きっと寝坊してる」
「……なら俺らが起こしてやらないとな。行こうぜ、陽翔」
「あい」
仙は思い切りゆうりのみぞおちを殴り、ゆうりの口から血が一筋流れ落ちた。
「がはっ」
「いいからデバイス出しちゃえって!
ついでに、竜胆陽翔の弱点も教えろ」
「ぐっ……!」
「ゆうり…?」
「ゆーり!お前…!」
「!
竜胆陽翔…フィジカルおばけ!
ほらみろ、お前らの親友はボロボロだ」
「………っ!」
こんな姿、陽翔はともかく涼太には見られたくなかった。
そう目をぎゅっと瞑る。
「健気だねぇ、ゆうりくんは!
どれだけ殴っても、デバイス渡さないし、お前の弱点吐かないしさ」
「よくもゆうりに手を出したな」
「ゆーりを傷つけたこと、許さないぞ!
ゆうりは初めて至近距離で、2人が変身したところを見た。
自分を守ってくれるかのように、前に立ち、戦っている。
どうして。
どうして、2人は守ってくれてるのに、置いていかれた気持ちになるんだ。
「俺だって、昔みたいに……
俺だって、2人と同じヒーローに…!」
そうデバイスに力を込める。
画面には…
「不適格」
そう書かれていた。
「え…………?」
「まーいいさ!楽しみはとっとくもんだ。
待っていろ、竜胆陽翔…絶対にそのかわいい顔を、歪めてやるからな」
「二度と来るなってば」
「ゆーり!怪我は……」
涼太がゆうりの顔を見て、息を飲んだ。
ゆうりは画面を見たまま、固まっている。
「ふ、不適格…?」
「ゆうりが………?」
ゆうりは思わず踵を返し、走り去った。
2人の静止の声は届かなかった。
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教室に入る気になんて、とてもそんな気にはなれず、ゆうりは早退をした。
あのガヤガヤした空気に今は溶け込める気なんてしなかった。
とにかく1人になりたかった。
「なんで」
変身できなかった。
陽翔や涼太みたいに…。
変身できなかったところを、涼太に見られた。
「なんで…どうして………
…………いや、いい。
もう……」
そう言い、ゆうりは勉強机に座り、参考書を開いた。
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全国模試、学園のテスト、全てにおいて一位を獲得した。
ほら、やっぱり俺は間違ってない。
勉強は裏切らないんだ、きっと、ここまでしたら、きっと…父さんも………
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自宅に帰ると、録画したであろ甲子園の映像を熱心に鑑賞する父がいた。
「父さん、ただいま…
俺、全国模試で1位なれたよ…」
「…………で?」
「えっ?」
「だから、なんだ?」
「あ…」
「それにしても、お前と同じ学校の涼太くん、でかくなったなぁ」
涼太の名前に、ゆうりはぴくりと反応する。
「才能もピカイチだし。
涼太くんがうちの息子だったら、よかったのに」
目の前が、真っ暗になったような気がした。
ゆうりは自室へと戻り、以前ゴミ箱に捨てていた紙を拾い上げ、じっと見つめた後、記載されている番号に通話をかけた。
「俺を、そこに入れてください」
そう言うゆうりの目から一筋の涙が流れていた。




