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第八十七話 ひまわり



「あのね…」




ラナは語り始めようとしたが、陽翔(はると)は「いいの?」と遮った。




「なにが?」




「話しても。

無理してない?」




「ううん、聞いてほしいの」




「わかった」




いきなりこんな話をしても、驚かれるのはラナもわかっていた。

ただ、

陽翔に自分を見てもらいたいという衝動に勝てなかった。

私って哀れだな、と自分を軽蔑した。





ストレス性の健忘症だと言われたラナの目には無機質な天井しか、瞳に映らなかった。




どこで、どうやって生きてきたかは孤児院の院長が教えてくれた。



一度にたくさんの面会があると、パニックを引き起こす可能性があったため、入院した3年間は院長のみ訪れていた。





「院長さん。

私には友達がいなかったのでしょうか」




「まさか!

貴方は院でも、学校でもたくさんの人に恵まれてましたよ」




じゃあ、どうして誰もきてくれないのだろうか。




「私には…親友も、好きな人も、いなかったのかな…」




院長は少し困ったような表情を浮かべたが、すぐに笑顔で取り繕った。




「もう少し落ち着いたら連れてきますからね。

その子も今、受験のために頑張っているから」




結局3年間、院長のみしか訪れなかった。





「院長の嘘つき…」




「症状もだいぶ落ち着きましたね」




病院の先生にそう言われ、すっきりしたが、なぜだか胸に詰まるこの感覚は一体なんなのだろうか。





「これからどうしよう…」




もう退院して良いと言われても、中卒だし、頼る人もいない。


孤児院は原則18になれば出て行かねばならない。




「あなたはまだ18歳です。

新しい人生のスタートだと思って…」





先生にそう言われても、なにもないのに、どうしたら…




「高校…

行ってみたかったな」





この後、院長が迎えに来てくれる予定だったが、もうそんなもの必要はない。

だってもう、院長とお別れしなければいけないのだから。




ラナは5枚ほど院長に対する感謝の手紙を書き、病院をあとにした。




高校を卒業してなくても、精神科に入院してたとしても、なんの資格もないが、生きなければ。




すれ違う中高生に胸を痛めながら、ラナはその日暮しを始めた。




初めたのは夜の仕事。

それしか選択肢がなかった。

キャバクラの寮に入り、毎日出勤し、孤独を感じないように過ごし、一年が経った。




「もう一年ここにいるのか…」





寮の部屋の真ん中でうずくまり、そうつぶやいた。




毎日出勤はさすがに疲労が溜まる。

ストレスも異常だったが、恐らく孤児院にいたときよりはマシだったのかもしれない。

だって記憶があるんだから。




幼少期、なにが好きだったか、なににハマっていたのか、なにも覚えていない。



だけど最近入ってきた女の子と友達になることができた。




ヒナノという名前の明るくて優しい子だった。




名前、といっても源氏名だろうが、ヒナノという名前に懐かしさを覚え、ラナから声をかけた。





ラナはどちらというと、ヒナノと2人の時間を共有し、思い出をつくりたかったため、この誘いは毎回断っていた。




「お願い!

担当の本数つけたいの!

私がお金出すから!」




「うぅん…」




そんなに言うなら一回だけ、と承諾をした。

本当はあそこで、ヒナノを止めていれば、よかったのに。




初めて踏み入るホストにラナは圧倒された。

コールなんて文化、本当にあるのか。

ホストの圧が強く、ラナは息苦しくなった。




入りたくない。

なんだか息が詰まりそうだし、休みの日くらい、夜の世界に浸からずゆっくりしたかった。





「ごめん、ヒナノ…

ちょっと体調よくないかも…」




「え、大丈夫?

そしたらキャッシャーでつけとくから、帰る?」




「キャッシャー…?」




「お金だけレジで払うかんじ!」




「うん…じゃあそれで」




結局ヒナノはそのままホストに入店し、ラナが本数をつけた途端、「気をつけてね!」とだけ言って、店内に入って行った。




なんだか利用されたような気がして、ますます体調が悪くなった。




「なんなの…?」




トボトボと騒がしい歌舞伎町を歩く。




「あ…」




ラナが見つけたのは、かわいらしい花が置かれている花屋だった。




「歌舞伎にも花屋あるんだ」




『ひ………には、ひまわり、似合うね!』




店内に置かれたひまわりを見た瞬間、頭の中にノイズがかかった。




「…………?

ひ……」




名前が思い出せない。

ひ………きっとヒナノだ。

寝ぼけているときにきっと話した内容だろう。




花屋の壁に「求人募集」の張り紙があるのに気がついた。




花屋か………

重労働そうだが、なんだかやってみたいかも、そう思った。




そう感じたのは初めてだった。



きっとこのひまわりが、力をくれたのかも。




そう思うといても経ってもいられず、店員に声をかけた。




歌舞伎町にあるということもあってか、ラナの経歴や事情にも寛容で雇ってもらえた。




ここからが新しいスタートになるかも。

いきなりキャバクラを辞めることは難しいが、これからはようやく真っ当に胸を張って生きれるかも!と浮き足立った。

※作中の歌舞伎町や夜職の描写にはフィクションが含まれます。現実の歌舞伎町では20歳未満のキャバクラ勤務やホストクラブへの入店は認められていません。

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