第八十四話 替わりが見つかるまで
はぁ…と梅はため息を吐いた。
せっかく可愛がっていたこうきが自分の元から去ってしまった。
せっかくここぞという場面で拳を振るわなかった。
「これが映画や舞台なら大コケじゃないですか?」
「そうね」
百合は興味がなさそうに桃を口に含んだ。
「私の途中退室にも追ってこないのはさすがに興醒めです」
「そうね」
「次はもっと頑張ってもらわないと…このままでは死んでしまう…」
「死ぬ気ないでしょう」
「はい」
「こうきくんはヒーローやり続けられるようなメンタルの持ち主ではないので。
これからどんな言い訳をして、責任から逃れようとするか楽しみです」
———
「やっぱりだめだ…」
こうきはソファの上で膝を抱え、そうつぶやいた。
警察署のとある一室ににて、部隊の全員が集まってる中こうきはプレッシャーで押し潰されていた。
「警察の皆さん…
僕はここです…
抵抗はしません…」
「こいつMなの?」
あおいの言葉にこうきは違うよ!と声を張り上げた。
「わかったわかった、こうきくん。
一度落ち着こう」
勝がそう言い、こうきの背中を押し一緒に廊下へ出る。
「やっぱり君が最後に選ばれたのは、その責任感だな」
うんうんと頷く勝に、こうきは口をぎゅっと結んだ。
「なんで…」
「?」
「なんで貴方が、ヒーローをやらないんですか…」
「それは…」
「貴方は、自分の息子が危険なことをしているのに、なにをしているんですか?」
こうきは黙ってしまった勝に、苛立ちを隠せなかった。
「自分の息子が、死ぬ可能性があるんですよ。
なぜ、息子にそんなことやらせるんですか」
「俺は選ばれなかった。
それだけだ」
「だけど、できる事もっとあるでしょう!
貴方はただ指示を出してるだけで、息子を…子供たちになんて事させるてるんです!」
警察はなにをしてる!
そう糾弾した。
「僕が…僕があそこにいた7年間…
一度だって、警察の手が及んだことはないぞ!」
あんなに面構えが良い拠点、派手な誘拐、明らかに足がつくに決まっている。
何年も海外と日本を出入りして。
市場を伺っていたことに気が付かず。
「自分たちの手を汚したくないのか?
だから幼い子どもたちを使ってるのか?」
「僕にヒーローをやらせるのも、陽翔にヒーローをやらせるのも…全部間違ってる!」
「こうきくん、落ち着きなさい」
「なにを騒いでるんですか?」
「アザミちゃん」
「………?」
こうきはアザミの顔を訝しげに見つめる。
「なにか?」
「いや…………
………どこかで会ったこと、ありますか…?」
「こうきくん、アザミちゃんが美人だからってナンパするな」
「いや…!
そうじゃなくて、本当にどこかで…」
「私は会ったことありません。
勘違いでは」
「あ…はい、すみません」
クールな女性だ、と感じた。
赤井アザミとか言ったか。
同い年くらいだろうか。
「…貴方も部隊の人です、よね」
「アザミちゃんがあのデバイス造ったんだ」
「…ならなぜ貴方はヒーローにならないのですか」
「………」
「こうきくん」
「私は、妹2人を百合に奪われた。
だから心血を注いで造った。
だけど、適合できなかった。
ここまで言えば、満足ですか?
黒いの」
「く、黒いの…」
妹2人を失った…
その時、自分はなにをしていただろうか…
「言い過ぎました。
女性に無礼を働いたこと、深くお詫びします」
「別にいいです」
「こうきくん。
やりたくてもできない人間がいることを、どうかわかってほしい」
「………」
勝の言葉にぎゅっと腕を握りしめた。
「…取り乱して、すみません」
「いいんだ」
いきなりヒーローや特殊部隊なんて言われても、ピンとこないよな、と勝は豪快に笑った。
「選ぶ基準は私でもわからない。
自分で造ったのにね。
だけど、次はいつ適合する人が現れるかわからない。
そもそも、同じデバイスが2人目を選ぶかどうか…」
「……」
「こうきくん。
確かに君の言う通りだよ。
俺だって、息子の代わりに戦いたい。
息子には、あんな世界知ってほしくなかった」
勝の腕が震えているのに、こうきは気がついた。
「………他に、誰か見つかるまでだったら」
「そうか…!
やってくれるか!」
「人員が見つかるまで、ですからね…!?」
自分でこう言っておきながら、きっと最後までやるんだろうな、と感じていた。
陽翔たちの未来を守ってからでも、自首するのは遅くない。
そうですよね父さん、母さん。
「ところでアザミさん。
なぜ衣装がこんな洋風でハイカラなんです…?」
「アザミちゃんロリータ好きだからなぁ」
「バラさないでください!」




