第八十三話 共有
「え…」
こうきは固まってしまった。
なぜ、僕が。
梅はこうきを見て、歓喜した。
「おめでとうございます!
さ、はやく新しい衣装になった貴方を見せてください!」
その言葉を聞き、陽翔の顔を見ると、黙ってこうきを見つめていた。
まだあどけない、だけど強さもある表情に、こうきは揺さぶられた。
陽翔はもう戦う覚悟があるんだろう。
だけど、そうさせた梅に言いようのない怒りがこみ上げてきた。
こうきは静かにデバイスを受け取り、変身した。
「すごく似合ってますね、かわいいですよ」
「もうやめて」
「なぜ」
「嫌なんだ」
魔法が解けるってこんなかんじなのだろうか。
いつも自分が加害されるより、周りが加害されることの方がよっぽど嫌だった。
だけど、胸の奥で違和感を抱くことくらいしかできず、なぜ自分でも「もうやめてあげろ」と言っていたのか。
自分がされたことを、同じ目にあってほしくなかった。
「何度でも、魔法をかけることはできますよ。
貴方、今の姿を両親に見せれますか?
「見せるために、変身したんじゃないんだよ」
「こうき…」
「陽翔、下がってなさい。
こんな変質者と関わっちゃいけないから」
梅はつまらなさそうに肩をすくめた。
「変質者?
もっと美しい言い方をしてもらわないと」
「美しくないやつに、美しい言葉は使わない」
梅はふーんと鼻を鳴らす。
「こうき、一緒に戦お」
「そういえば、陽翔くんのかわいい姿も最近見てないですね。
写真撮っていいですか?」
「やだ」
陽翔はきちんと拒否ができて偉いとこうきは感心した。
「変身するな、陽翔
あいつが喜ぶだけだから」
「今日はつまらないですね」
「よかったな、今僕が剣がなくて。
わかったら帰れ。
もう充分だろ?」
梅は心底がっかりした表情を浮かべた。
暴力に訴えてきたら、もっと簡単にいったのに、と。
こうきは見抜いていた。
今、拳を出せばまた丸め込まれると。
「貴方は怒りに身を任せ、誇りを刃にして他人に向けるんですか?」と言うに決まっているのだから。
「今日はこれ以上盛り上がらなさそうですね。
いつか私と対峙してくださいね」
じゃないと面白くないので、と言い残した。
つまらない空間には興味が沸かないのはわかっていた。
陽翔は追いかけようとしたが、こうきが膝をつき、陽翔の手を握った。
「こうき、なんで戦わなかったの」
「こ、こわかった…」
「大丈夫?」
「…陽翔、なにも殴ることだけが戦うってことじゃないんだよ……
あぁ…怖かった、本当」
「?」
「…裁判とかだって、殴って戦わないだろ?」
「でも、怖かったのになんか凛としててこうきかっこよかった」
「………でもやっぱり、ヒーローをやるのはダメだ。
僕以外に、きちんとした適合者がいるだろう」
その言葉に、陽翔は首を傾げはてなマークを浮かべた。
「なんで」
「なんでって…僕はあいつと一緒で…」
「え、どこが?」
「僕は罪を償わなくちゃいけないんだ!
やったことなくても、周りが誘拐してるの見てるしかできなかったんだから…」
「やってないの?」
「うん…」
「なら、あいつらを倒すのが1番の償い方じゃない?」
「え…」
「殴るだけが戦うってことじゃないんでしょ?」
まぁいつかは殴らなきゃかもだけど、と陽翔は付け足す。
「それは…」
「一緒に戦おうよ。
1人じゃないよ。
でも嫌なら俺はこうきの分まで頑張る」
「ダメ!
………ちょっと考えさせて」
「当たり前に」
こうきの好きなお菓子でも買って行こうと陽翔はにこっと笑う。
同じ笑顔を向けられているというのに。
陽翔の笑顔はホッとする。
これが「人」と話すってことなのかな。
「和菓子」
「和菓子?」
「いちご大福が、1番好きなんだ」
「いいじゃん」
初めて自分の口から好きなものを共有できた気がする。
いつもはなぜか知らないが、知られていたから。
いつかもっとたくさんの人と、好きなものを共有できていけたらいいな、とこうきは感じた。




