第八十二話 最後
「梅…」
「元気でした?
2人とも」
飄々とする梅にこうきは吐き気を催した。
「陽翔くん、独り占めよくないですよ」
「してないよ」
陽翔は心底うざいといった表情を浮かべた。
「ぼ、僕は、もう自首するよ」
「え、自分が決めた道を貫くのがあなたの考えでしたよね?」
「それは…」
「父と母をきちんと最後まで向き合って食べられたとき、本当にかわいいと思いました」
胃からなにかこみ上げてくるようだ、胸焼けが止まらない。
「うぅ…っ」
「お前が無理矢理そうさせたんだろ」
「でもその後も私の隣にいるのを決めたのはこうきくんですよ」
「お前が恐怖で縛ったんだろ。
こうきの人生を奪うな」
「陽翔…」
梅はニコニコとしており、なにを考えているかわからない。
梅の態度に陽翔の怒りはヒートアップした。
「こうきからこれ以上搾取するなよ。
こうきの人生をこれ以上奪うな」
「え、勘違いですよ。
こうきくんが私とお揃いを選んでくれたんですよ」
こうきは心拍数が上昇していく感覚に倒れそうになった。
身体中の毛穴から汗が吹き出す。
「そんなの強制しただけで、他の道を潰しただけでしょ」
——なにしてるんだろう、僕は。
もう20代も半ばになるのに、高校生に代弁させて。
情けない。
僕のせいで父さんと母さんは亡くなって…今の情けない僕を見たら、父さんは僕を殴って、母さんは泣いてしまうだろうな。
でも、逃げなかったのは事実。
弱かったのも事実。
もう後戻りできないのも事実。
それなのに、こんないい子が僕みたいになりたいって言ってる———
「もう、陽翔に関わらないで…」
「え?」
梅はこうきの言葉に驚き、笑みが消えた。
なに言ってるの?と顔に書いている。
「陽翔も…僕みたいにする気でしょう…」
「あ、バレてました?
大丈夫ですよ、あなたのことも好きですよ」
「僕は好きじゃない…」
声が震える。
「金鞠蜜樹や片栗ゆうりに酷いことをして…陽翔にも…
未成年に酷いことする奴は、大嫌いだ」
「お揃いなのに?酷いですね」
「一緒にしないでくれ」
「僕は人の人生を、壊したくない。
17歳の陽翔を守りたい」
「こうき…」
「振られちゃいました」
梅は残念そうにため息を吐いた。
「ならもう一度、魔法をかけてあげましょうね」
「ふざけるなよ」
懐から取り出した仮面を、陽翔が叩いた。
仮面はカランと地面に落ち、こうきは仮面から目が離せなくなった。
「………仮面をつけているときは、本当に魔法のようだったよ…
だって自分を正当化して、逃げられたから」
こうきは仮面を拾い、力を込めた。
「でも、それも含めて僕なんだよね…」
ぎゅっと胸が痛んだ。
——それならせめて、最後に本当の自分の正義を貫きたい———
「陽翔、僕は君の未来を守りたいな」
「俺は自分で守るよ」
「…君みたいな子供を、こんな奴から守るのが大人の役目だ。
僕みたいになるな、絶対に守る」
「こうき………ん?」
陽翔が持っていた残りのデバイスが震えている。
「あ、こうき…」
「え?」
画面には適合と表示されていた。




