第八十一話 自首する前に
梅は嘆きながら、仮面を撫でた。
「せっかくおそろいになれたのに…」
こうきはお気に入りだったため、女性を一回も連れてこないことに目を瞑っていた。
日本語もこうきのおかげで話せるようになったし、そばにいてくれるだけでよかったのに、と。
「あの美しい顔と心が好きだったのに…」
傍らで紅茶を飲んでいた百合はその言葉を聞き、カシャンとカップを乱暴にソーサーに置いた。
「私がいるのに!!」
「落ち着いてください」
百合は絶対に梅が男を愛するのを許せなかった。
女性なら共有できる、しかし百合が大嫌いな男性に意識を向けるのだけは嫌だった。
「あんなつまらない男のなにがいい」
「つまらなくないですよ、あんなかわいい人いないです、寂しいです…」
「は」
「あんなに繊細でかわいくて守りたくなるのに、壊したくなる人他にいなかったのに…陽翔くんに取られちゃいました…」
さめざめと泣く梅を百合はため息を吐き、よしよしと頭を撫でた。
「そんなに悲しいか、それならしかたないか…
奪われたなら奪い返せばいいこと。
だけど恋愛感情はすてろよ」
百合はよしよしと梅を抱きしめた。
そんな様子を少し開いた扉からミヤコは見ていた。
梅に仕事の進捗を伝えにきたら偶然目撃してしまった。
ガリガリと腕を掻きむしり、目は血走っている。
見たくないのに、見てしまう。
あの2人が美しすぎて、目が逸らせない。
残酷な光景だ。
スッと目の前に手のひらが映った。
甘いけれど、どこか大人っぽい匂いで誰かわかった。
危険な香りがするのに、妙に落ち着いた。
誰かわかった瞬間に、思わずポロポロと涙をこぼしてしまった。
ミヤコは静かに扉を閉め、嗚咽を上げながら泣いた。
「…日向…」
「今日もお疲れ様、ミヤコちゃん」
「あなた…」
「ミヤコちゃん、僕にも目隠ししてよ、目隠したまま練習して弓撃ちたいから」
「……いいわよ」
「ありがとう!」
「わたくしが見てるんだから、全てに当てるのよ」
「もちろん」
———
「そんなことが…」
こうきの告白にラナは言葉を失った。
「僕はやってはいけないことをしたし、見逃していた。
だから自首するしかもう、両親に合わす顔がないよ」
「それは…」
「被害者でもあるだろ」
あおいがそう口にすると、こうきは頭を横に振り否定をした。
「止めなかったし、逃げなかった僕が悪い」
「まーそこまで言うなら止めないけど」
「2人のことも傷つけたし…今から警察に行ってくる」
「おーそうしろそうしろ」
あおいは投げやりに言った。
「でもお前、腕と人柄買われて俺らの部隊入るんだろ?」
「入らないよ!」
「入らないの、どうして」
「僕より相応しい人がいるからだよ!」
「誰?紹介してから警察行ってくれる?」
陽翔とあおいの言葉に、ぐっと詰まる。
「まぁお前がどうしたいかなんてどうでもいいし、梅とかいう奴と同じになりたくないから、勝手にしたらいいんじゃねー」
「あおい、そんな言い方…」
「ああ、好きにさせてもらう!
もう放っておいてくれ!」
こうきはそのままバタンと扉を閉めて出て行ってしまった。
「めんどくせ〜」
「俺、こうきを見送るよ」
「おーそうしてやれ」
「こうき」
「陽翔…なに?」
「見送りにきた」
「そう…」
「警察行く前にさ、俺の話もちょっと聞いてよ」
「…わかった」
陽翔とこうきは公園のベンチに腰掛け、青空を見上げた。
「綺麗だなぁ…」
「そうだね」
「話って…」
「ゆうり、今頃天国でなにしてるかな」
「……」
「どうしてるだろう…」
「こうきはすごいね。
正義感もあるし、責任感もあって。
大人ってかんじ」
「…大人だよ」
「ゆうりを守りたかった、助けたかった。
俺がもう少し、こうきくらい大人だったら気づけたのかな」
「陽翔…君はまだ17歳の子供なんだよ…
大人になる必要、ないよ」
「俺はゆうりを忘れない。
お前のことも忘れない。
みんなを守るために、強い大人になりたい」
「…」
まだ17歳なのに。
まだ保護されるべき子供が、こんな事を言っている状況に頭を抱えた。
「君はまだそんな大人になっていい歳じゃ…」
そう言いかけたとき、ポン、と肩に手を置かれる。
「まぜてください」
その声を聞き、ヒュッと青ざめた。
「ね?
こうきくん、陽翔くん」




