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第八十話 お揃いですね





「だ、だれ、ですか…?」




「始めまして、梅と申します」




メイ…?

日本人ではないのだろうか。




「素晴らしい剣技でしたね」




「はい…?」




「まっすぐな突き技。

まるであなたのヒトガラ、のようでした」



「そんな…」




フェンシングについて触れられたのは初めてだった。




「きっとものすごくタンレン、を積んだの、でしょう?」




「そんなことありません。

自分はまだまだで…」




「ケンキョですね。

たかみを目指すしせい、そんけいにアタイします」




日本語が少し片言だ。

頑張って日本語で褒めようとしてくれているのだと感じ、じんわりと心が温かくなった。




「貴方は…日本語がお上手ですね。

ありがとうございます」




「イイエ」





「アナタを、スカウトしにきました」




「スカウト…?」




「もっといい環境で、フェンシングにシュウチュウできる場所をテイキョウしますよ」




うますぎるな、とこうきは思った。

しかし、今現在の騒音から離れたく話だけでも聞いてみることにした。




後日、話を聞きに行くと、梅と美しく儚い梅と同じくらい真っ白な少女がいた。




少女は梅に耳打ちをした。




「あなたに練習がはかどる場所、最高のコーチなどをテイキョウします。



そのかわり、このコのお世話係と日本語を教えてほしいです。


もちろん給料は出します」





その後、フランスの講師や最適な訓練場を紹介されすっかり梅のことを信用してしまった。

この受けた恩を返さねば。



「百合様、これはいちご大福、もなか、ですよ」




「い…いちぇごだふく!」




「惜しいです」




百合といてわかったことだが、かなりの偏食家のようだ。

わざわざ海外の実家から冷凍で送られてくる。

引き取る際やたら重く、一体どんな食材なのだろうかと常々気になっていた。




しかしそれは梅が引き受けてしまっていたので、結局わからずじまいだった。




…まさか少女の遺体だとは微塵も思わなかった。




「百合様、今日はなにかお話を覚えましょう。

シンデレラなどいかがでしょうか」




こうきは絵本を百合に差し出したが、首を振られ、本棚に歩き出した。

百合がおもむろに取り出したのは、「本当はこわい童話」というものだった。




「こ、これは百合様にははやいのでは…」




そういうと百合の顔から笑顔が消え、恐ろしい形相となった。




「…仕方ありません…ね…」





「シンデレラの姉は靴を履くため、足を切断し…」




「きゃはは!」




百合は幼い子供のように手をパチパチして喜ぶ。



残酷なシーンにこんなに興奮するものだろうか………




「百合様はどこかおかしいのではないか………

もしかしたら、なにかトラウマがあるとか…

僕が支えてあげないと」




ここまでフェンシングの腕を磨かせてもらった上に高い給料をいただいているのだ。

百合にもしなにか悲しいことがあったのならば、支えていかねば。

そう決意した。




そんなある日。

夜中に目が覚め、どうしても寝付けなくなってしまい、水でも飲むか…と廊下を歩いていると、百合の部屋が少し開いていた。

扉からは光が漏れている。




「百合様、こんな夜更かしを…

いけない成長期だというのに」




よくないとわかりつつ、部屋を覗くと恐ろしい光景が飛び込んできた。




クチャ…クチャ…




なんの音だろうか。

なにかを食べている…一体あれは…




「え、指…!?」




こうきが思わず後退りをすると、ドンっと壁とは違うものに当たり、恐る恐る振り向くと不気味な笑みを浮かべる梅が立っていた。




「あ、あああ、あれ!?

一体…!?」




「ああ、指ですね。

美味しいですよ」




「ぇ…」




「ど、どううこと、だ…!?

あれはお菓子!お菓子でしょ…!?」




「いいえ、正真正銘人間の指です!

いつも受け取りありがとうございました!」




そ、そんな、あれは人間の死体だったというのか。

途端に吐き気を催したが、梅を睨み言い放った。




「今日で…やめさせてもらいます…

お世話になりました」




「えぇ、ダメですよ

貴方がいてくれたおかげで、こんなに日本語がスラスラになったんですよ?」




「充分…恩を返せたつもりです。

やめさせてください」




しょうがないですね…と梅は特に残念がらず、「では最後の晩餐にしましょう」と言った。




「食べる気にはなれません」




「大丈夫!

絶対に食べたくなります!」




こうきを座らせ、梅はパイを目の前に差し出した。

まるで事前に用意していたかのようだ。




「貴方、最近察しがよかったから前もって用意してたんです。」




「…」




出された食べ物は全て食べるようそう教えられてきた。

世の中には、食べたくても食べられない人間がいるからと。




「いただきます………」




サクっとパイを切り、一口食べると今まで食べたことがない不思議な味がした。

ミートパイだろうか…?

独特な肉の味だ。





「………?」




「貴方のためだけに用意したんです!

さぁこの動画をご覧ください」



「?」



『離せ!触らないでくれ!』





「と、父さん…?母さん…」




動画には父と母が縛られ、発狂している姿が映されていた。





「2人を解放してください!」




「あぁ、もうしてますよ」




なんだ…よかった…




「そこに」



「え?」




梅はそう言い、パイを指差した。




まさか…まさか先程食べたのは…




「さ、君のお父様とお母様の拷問映像でも見ながらきちんといただきましょうか」









「はぁ…

あ……」





「これでおそろいですね!」




「あ、ぁぁぁぁっ…」




「魔法をかけてあげましょう」




梅は懐から銀色の冷たい仮面を取り出した。




「美しい貴方にぴったり。

これからもよろしくお願いします。



自分が選んだ道を誇っていきましょうね!」




そうだ…全部自分で決めたんだ。

もうショックで頭が回らない。

こんなことをしてしまい、もう普通には生きられない。




こうきは仮面を受け取り、静かに装着した。




「これから一緒に頑張りましょうね!」




「……あぁ……」




もう、父が言っていたように芍野家の敷居は跨げない。

父が1番嫌いな人間になった。

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