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第八話 羨望

涼太は真剣な顔でバットを構えた。

1年で甲子園での4番バッター。

異例すぎなのでは…とゆうりは小さく舌打ちをした。



涼太が一度ボックスに入ると、なにか慌てた様子で会場を出て行ってしまった。



あいつ…試合中になにやってるんだ。



普段なら無視するのに。

なぜか気になり、ついていってしまった。



「くそ…ガキどもめ!

覚えてやがれ!」



涼太についていくと、この間牧場にいた派手な男が撤退し、陽翔と涼太がハイタッチしてる姿を目撃した。



「………!涼太も、ヒーローに…!?」



ゆうりの中でいいしれぬ、黒い感情が渦巻いた。



ゆうりはポケットから、青いデバイスを取り出して握りしめた。




「俺も…なれるかな。

ヒーロー、に」



ゆうりはそう呟いて、その場をあとにした。



試合が終了し、相手チームの選手に興奮気味に声をかけられる。



「ね、ねぇ!

君、片栗選手の息子さんだよね!?」



「まじか、本物!?」



「今日試合には出なかったの!?」



一気に捲し立てられ、ゆうりは苛立ちがかくせなかった。



「もうやめたんで」



ゆうりはポケットに手を突っ込み、ぶっきらぼうに言った。



「じゃ」



————-


20××年、野球選手、片栗優仁が電撃結婚を発表した。

相手は長年近くで支えてくれていた、美人栄養士である。


そんな2人の間に生まれたのが、ゆうりだった。



優仁は非常に子煩悩で愛妻家、仕事も家庭も順風満帆と、メディアでは報じられていた。




「ゆうり、お前は将来俺と同じ野球選手になるんだ。

わかってるな」



「うん!」




『夢は息子とバッテリーを組む事です』




父は、カメラの前で、いつもにこやかにそう語った。




「なぜできない!?

平均よりも数値が低いぞ!

ただの走り込みでへばるんじゃない!」



「ご、ごめんなさい、父さん」



父には俺が大きくなっても、自慢の息子です!と何度かメディアに出演させられた。



その度に、「あの有名な片栗選手の!?」と、言われるようになってしまった。



父と母はおしどり夫婦、だなんて騒がれているが、表向きの仮面夫婦になったのはいつからだったろうか。



涼太が野球を始めてからだ。



小学4年生になり、ずっと1年から同じクラスだった、若松涼太と竜胆陽翔と一緒に野球部に入部をした。



陽翔はともかく、涼太は初日から異端な才能を見せつけ、俺は目の前が真っ暗になった気がした。




「なんで」



俺は物心ついたときから、訓練して、陽翔と涼太と遊びたくても我慢して、いっぱいいっぱい、つらかったのに。



どうして涼太のほうが、上手なの




「ゆーり!野球教えてくるよ!

ちっちゃいときからやってたんだろ!?」



「べ、別に教えることなんかないよ。

涼太、初日なのにすごいじゃん…」



「でもゆーりのが上手だって!

こことかどうやって」



「陽翔とやりなよ」



「え、ゆーり…」



「俺、素振りするから…」



涼太に上手と言われた瞬間、プライドにヒビが入った気がした。

もっともっと頑張って、涼太を越えなきゃ。

必死の思いでバットを振った。



時は流れ、中学生になった。

父に呼び出され、顔をパンっと叩かれた。



「なんでお前はそんな出来損ないなんだ!

いくらお前にかけたと思ってる!」



「父さん、痛いやめてください、ごめんなさいごめんなさい…っ」




「あぁ…いや。

もういい」



「………え?」



「俺の筋書きの人生を台無しにしやがって、何年も。

疲れたよ。


だから、もういい」



今までの怒りに満ちた顔とは違い、心底興味のなくなった表情を、父は浮かべていた。




「待って、父さん…!

俺、野球は、ダメだったかもしれないけど、ほかのことで頑張るから…………、待って!行かないで……!


父さん!!」




「ハッ!」



ゆうりはバッと目を開き、夢から覚めた。

ドクンドクンと心臓はうるさく、寝汗も大量にかいていた。




「夢………夢じゃ、ないけど………」



翌日。

今日もなにも用意されていない食卓を尻目に、TVをつける。



TVで父の活躍を眺めつつ、デバイスを握る。




「勉強を頑張って…ヒーローになれたら…また俺は………」




そう呟き、学校に向かうため自宅を出た。



デバイスを両手で持ち、家を出てると、後ろからガバッと手で口を覆われる。




「!?」




「君が片栗ゆうりくんかぁ、へぇ〜華奢でかわいいねぇ。



そのデバイス、寄越してもらえねぇかなぁ」



ゆうりはデバイスに力を込めて、仙を睨むことしか、できなかった。



続く

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