第七十七話 仮面
「変身できるようになったか」
「はなとお前のおかげ」
高らかに笑う仮面の男に陽翔はごくりと喉を鳴らした。
「最後に見る光景が私の剣なのは光栄だろう」
「最後じゃないよ。
名前聞くって言ったじゃん」
仮面の男が構え、大きく踏み込み突く。
「はや…っ」
陽翔の頬に剣が掠め、血が流れる。
「さぁ、どうした」
「はやすぎ。
見せる気ないでしょ」
仮面の男はきょとんとし、笑い声をあげた。
「面白い!
私の剣技がそんなに見たいか!」
はやい突き技に避けるのが精一杯だ。
変身しているのに、この男強すぎる。
「あ!?」
右腕に剣が突き刺さり、瞬時に抜かれ、血がドッと溢れた。
「ぐ…っ」
陽翔はだらんとした右腕を押さえ、痛みに歯を食いしばった。
思わず後ずさり、公衆便所の壁にぶつかる。
仮面の男は踏み込み、鋭い剣が壁に突き刺さり、壁に亀裂が入った。
「…!!」
コンクリートの破片がパラパラと落ち、陽翔は冷や汗をかき仮面の男を睨みつけた。
「おわりだ」
なんとか…なんとか勝つ方法は…
陽翔はふとあることに気がついた。
「(なんで、突き技しかしてこないんだ)」
剣のことは詳しくないが、普通に切れそうな剣を使っているのに。
スピードも速いし一突きは強いが、その分動きがそこまで大きくない…かもしれない。
右腕はもう使い物にならない。
それなら、一か八か…
「終わりだ」
陽翔は鋭い突きを右の手のひらで受け止め、貫通した。
「!?」
まさか右手をわざわざ出してくるとは思わなかった仮面の男は狼狽えた。
その隙を見逃さず、陽翔は自ら右手を引き抜き、左手で仮面の男のみぞおちを殴った。
「ぐっ」
陽翔は肝臓があるであろう部分をもう一度殴った。
以前見た蜜樹の肝臓蹴り。
こんな形で応用できるなんて思わなかった。
「ふぅ…」
陽翔は服を破り、自身の右手を止血をする。
「痛い」
右手も左手も。
「ねぇ、名前教えてよ」
「…まだだ」
仮面の男は恐らく吐血したようで、仮面の下から血が流れていた。
仮面の男は地面に落ちた剣を拾い、構える。
「まだ終われない…!
まだ私の技は出し切っていないのだから」
「そっか」
陽翔は仮面の男の真似をし、構えのポーズをする。
「何の真似だ」
「お前」
「ふざけているのか!?」
「ふざけてないよ。
剣ないけど」
「なにがしたいんだ!」
「お前のこと理解したい」
陽翔は目を瞑り、深呼吸した。
「やっぱり」
急所を狙っているようで、狙ってないんだ。
そんなに突き技が得意なら、頬とか腕じゃなく、心臓を一突きすればいいんだ。
「殺す気、ないんじゃん」
「…!」
仮面の男の後頭部を左手で掴み、陽翔は思い切り頭突きをした。
その瞬間、仮面が外れ、かたんと音を立て落ちた。
「いっ…だぁぁ、たった…」
陽翔は硬い仮面に渾身の力で頭突きをしたため、自身のおでこを抑えた。
仮面の男は勢いの良い頭突きに思わず倒れ、後頭部を打った。
「あ、大丈夫…?」
陽翔は初めて仮面の男の顔を見て、息を飲んだ。
男の容姿は陽翔が今まで見たこともない美青年だった。
「………見ないで」
男は顔を真っ赤にし、涙目でぽつりとつぶやき、気絶した。




