第七十五話 会いたい
「壊れてない」
アザミに渡したデバイスには異常はなく、陽翔の元に返却された。
「そんな…」
陽翔は呆然とデバイスを見つめた。
アザミはその様子を見て、思い詰めたかのようにため息をつく。
「…私が変身しようと試みたとき…
妹を奪った奴らに復讐しようと考えていた」
「………」
「復讐心で、ヒーローにはなれないと改めて実感したわ」
「…じゃあ、どうしたら…」
「陽翔、わかるわ、その気持ち」
「ゆうりに…会いたい…」
「陽翔…」
アザミは涙を流す陽翔をそっと抱きしめ、頭をなでた。
警察署をあとにし、陽翔はとぼとぼと河原を歩く。
いつもここで、涼太とゆうりと遊んでいた。
『また遊ぼうね、陽翔、涼太』
そう笑っていたゆうりはもういない。
「俺が…もっとしっかりしてたら…っ」
突然雨が降り出し、一緒に雨宿りしたこと。
涼太と喧嘩し、止めようと必死になっていたこと。
一緒にキャッチボールしたこと。
絶対に忘れない。
「忘れるわけない…」
そうつぶやく陽翔の鼻にポツリと水滴が当たる。
「わっ」
雨はポツポツと降っていたが、徐々に強くなり、ザーザー降り出した。
まるであの日、雨宿りした日と同じだ。
「1人はいやだよ、ゆうり…」
陽翔は激しい雨の中、急いで自宅へと走った。
「はぁ、はぁ…」
「お兄ちゃん!?
めっちゃびしょ濡れじゃん!
はやくシャワー浴びて!」
「うん…」
はなに言われるがまま、浴室へと入る。
熱いシャワーに打たれながら、陽翔は冷えた体を温めた。
シャワーもそこそこに、髪を乾かし、リビングに行くとはなはYouTubeを見て笑っていた。
「…親父と母さんは」
「今日は2人とも遅くなるって」
「そっか」
陽翔が頷いた瞬間ピシャン!と、雷が鳴る。
かなり近くに落ちたようだ。
「きゃっ!?」
強い落雷の影響で部屋が真っ暗になる。
停電してしまったのだ。
「お兄ちゃん、懐中電灯取ってきて!」
「はいはい…」
陽翔が懐中電灯を手に取った瞬間、また近くで雷が鳴り、部屋が雷で光が走る。
「…っ!」
懐中電灯を落とした。
陽翔の脳裏に浮かんだのは、水沼が手にしていたスタンガン。
水沼の復讐に歪んだ笑みとスタンガン。
雷が鳴り響く度、あのスタンガンの痛みが身体を走る。
「はぁはぁはぁ…っ!」
「お兄ちゃん…!?
大丈夫?」
——俺は…もしかして水沼のおじさんと同じように復讐に顔を歪めていたのか…?
「そんな…」
またピシャ!と閃光が走る。
「やだ…やだやだ…!」
——もうスタンガンを、押し付けないでくれ…ゆうりごめん、気づけなくて…
1番許せないのは、ゆうりを殺したあいつらじゃなく…
「俺だよ…!
ごめんなさい、ごめんなさい…!」
ふわりと陽翔の肩に毛布がかけられた。
「もーお兄ちゃん混乱しすぎ!
はい、牛乳!」
「はな…」
「お兄ちゃん、覚えてる?
昔も雷落ちたとき、私のお気に入りの毛布かけてくれて。
お兄ちゃんがいるよ、って牛乳くれたの」
「…そんなこともあったな」
「お兄ちゃん、安心しなさい。
はながいるからね!」
「…そうだった…」
俺は、はなを守りたくて、最初ヒーローに…
「…牛乳、おいしい…」
「うん、よかったね」
よしよし、全くしょうがないんだからとはなは陽翔の頭をポンポンと撫でる。
「あ、電気ついた」
「…よかった」
陽翔は少し落ち着き、深呼吸をする。
すると、ふとあることに気がついた。
「なんでだ…?」
——あの仮面の男。
最初俺を殺しにきたと言っていた。
殺しにきたなら、変身できない方が好都合なのに。
水沼なんて俺を拉致して、たくさん拷問をして最後は海外に売り飛ばそうとした。
ゆうりを平気で殺せる集団だ。
それにゆうりが刺された時、これ以上見るな、って…
「もしかして…」
「お兄ちゃん、なにブツブツ言ってるの?」
「お前がいてくれてよかった」
「は、はぁ!?
急にキモいんですけど!」
仮面の男の真意はわからない。
だけど、絶対にまた会わなければいけない気がする。
「はな、出かけてくる」
「え!?」
「戸締りするんだぞ」
陽翔はデバイスを手にして、家を飛び出した。




