第七十四話 同じ気持ち
「不適格」
陽翔は自身の目を疑った。
———どうして、なんで…?
「どうした、なぜ変身をしない」
仮面の男の声に陽翔は震える手でデバイスをしまい、竹刀を握りしめる。
「そんなもので私と戦う気か」
「っうるさい!」
陽翔は竹刀を振りかぶるか、仮面の男は動じる事なく、片手で受け止めてしまった。
「なぜ変身しない。
まさかできないのか」
「そ、そんなこと…!」
「こんなもので、変身していないのに勝てるわけがないだろう」
「くそ、なんで…!」
陽翔は再びデバイスを取り出して何度も変身を試みるが、結果は変わらず、「不適格」と表示されたままだった。
「なんでだよ…ゆうりの仇をうちたいのに…!」
「もういい」
「あっ!?」
仮面の男が陽翔からデバイスを奪い、投げ捨てる。
「なにするんだ…!」
仮面の男は、パン!と陽翔の顔を平手打ちする。
強い平手打ちに陽翔は、睨む。
「ヒーローではなくなった貴殿に用はない。
殺す価値を見出せなかった。
残念だ、竜胆陽翔」
「な…」
「失礼する」
仮面の男は陽翔に背を向け、振り返ることなく去ってしまった。
陽翔はフラフラと立ち上がり、デバイスを拾った。
「不適格」
その文字を再び目にし、陽翔の目から涙が溢れた。
「…なんで……?」
静かな公園に陽翔の鼻を啜る音だけが響く。
「ゆうり……お前も…こんな気持ちだったのか…?」
陽翔は膝をつき、泣き叫ぶ声だけが木霊した。
———
「竜胆陽翔はもうヒーローではなくなった。
もう手を引くことだな」
「面白い展開ですね、まさか陽翔くんがヒーローになれなくなっただなんて!」
「これ以上の絶望はないだろう。
もう充分なはずだ」
いいえ、もっともっとかわいい顔を見せてくれなくては!と梅は興奮したかのように捲し立てた。
「これから陽翔くんがどうするか。
そこにさらなる絶望を与えるのが、貴方の役目です!
さぁ、次はどうしますか?」
「もう、やめてやれ。
竜胆陽翔はまだ年端もいかない子供だ」
「えっ、でもここは陽翔くんよりもずーっと子供を誘拐する場所ですよ、今さらではっ?」
「では、私は降りる」
「えぇ、それじゃあつまらない!
では、仕方ないですね…」
その言葉を聞き、こうきは安堵した。
少し肩の荷がおりた。
「まずは先にあなたに絶望というものを教えてあげなきゃ、ですね!」
梅は「彫刻刀」と呼んでいる…
メスを手にした。
彫刻刀にライトが当たり、鈍く輝く。
「…なにをするつもりだ」
「あなた猫がお好きでしょう?」
「そ、それがなにか…?」
「あなたフェンシングがお得意でしょ?」
「………?」
「そんなにお好きなら、猫の手と交換して、二度とフェンシングできなくしてあげてもいいですよ。
でも大好きな肉球がつきますよ。
ずっと癒されますね、よかったです!
懸念点はなかなか大きな猫の手がないことですねぇ、虎とかでも大丈夫ですか?」
突拍子もない提案だと、赤の他人は思うだろう。
でも相手はまともな人間ではない狂人なのだ、それくらい本当にやってのけるだろうと、こうきは唇を噛み締めた。
「生き恥ですね!
きっとかわいい手だと、みんなSNSに載せるでしょう!
そしたらこうきくんも晴れてインフルエンサーデビューですねぇ」
「生き恥をかくくらいなら、死んだ方がマシだ」
「やですよ、あなたは私のお気に入りなんですから」
梅はこうきの手を取り、手の甲にキスを落とした。
こうきは全身から汗が吹き出、手を払った。
「生かして、あなたの大嫌いなSNSに載せて、ずーっとあなたの尊厳を削っていきたいです」
「断る!」
「なら陽翔くんをもっと面白い道に導いてあげてください。
逃げても無駄です、ずーっと監視してますよ」
「く…っ」
こうきは梅の瞳を見て、歯を食いしばった。
「これからどうなるか、楽しみで夜も眠れません」
梅の楽しそうな笑い声が、屋敷に響き渡った。




