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第七十二話 こうき



「俺の話聞いてくれるか?」




「うん」




陽翔と涼太はあの河原へと向かった。

無言で向かった。




土手に腰をかけ、しばらく川の流れを見つめた。




「俺のお父さんさ、消防士だったろ?」



「うん」




「きっと今日みたいなこと、いっぱいあったと思うんだ」




「…うん」




陽翔は涼太から目を逸らし、空を見上げた。




「だけど、やめるわけにはいかないだろ?」




「……」





陽翔は黙って空を見つめた。




「昔…」




涼太も陽翔と同じように空を見上げた。





『涼太、困った人がいたら絶対に助けてあげるんだよ』




『うん!』




『全員は無理かもしれないね。

嫌われることもあるかも』




『??

なんで、たすけるのにきらわれるの?』



『うーん、そうだなぁ。

助けが必要じゃないからかも』




『?

たすけが必要じゃない人を、たすける…?』





『パパもうまく説明できないなぁ』




『じゃあなんで言ったんだよー』




『はは。

なんか、伝えなきゃって思ったんだよ』





——



「その後、逃げ遅れた人を助けるためにいなくなっちゃったけどさ。


うまいこと言えないけど、なんとなくわかる気がする」




涼太がそう言い、寝っ転がる。





「俺は助けられる人は助けたい。

もうゆうりみたいな人を出さないために」




「…」




「…陽翔は?」




陽翔はギリっと拳を握った。




「俺は絶対にゆうりを殺したあいつらを許さない。

絶対に潰してやる」




「陽翔…」




涼太は陽翔の肩を掴み、力を入れた。




「陽翔、お前…」




「絶対に許さない…」




———




梅はフェイスパウダーを丁寧にブラシで取り、機嫌よく化粧をしている。



「新しいブラシ、いいでしょう」



「………」




むせ返るような香水の匂いに、仮面の男は咳払いをした。





「気持ちが悪い。

早く用件を話さないか」




「せっかちなんですから」




そんなに急かさないでくださいよ、と梅は静かにブラシを置いた。




「私は貴殿の恋人ではないのだから、さっさとしてほしい」




「はぁ…




百合様に呼ばれてますよ。

私と一緒に」




「な、なぜ…」




「バレたんでしょうね」




仮面の男はこみ上げる吐き気に、頭を抱えた。





「行きましょうか」




仮面の男は今から百合の元にこの男と向かわなければいけない事実に、倒れそうだった。




———




「梅、何度も言っているだろ」




百合は手にしていたグラスを梅に投げつけた。




「申し訳ありません」




「なんなら今こいつを殺してもいいんだぞ」




そう言い、百合は仮面の男を睨む。




「男をお気に入りにしてなんになる。

陽翔ほど面白みもないくせに」




「すみません、だってこうきくんはシャイですので、からかいたくて」




「………」




「ふん。

陽翔のがよっぽど面白いのに。



何度も言っているが、男のお気に入りはつくるな、女だけにしろ」




百合は女性のお気に入りの「共有」はよしとしているが、男性のお気に入りをつくることは断固として拒否していた。






「な、なぜ…

竜胆陽翔を、そんなに気に入っているのですか」




「それは梅と私が知っていればいいこと。

お前には関係ない」




百合の言葉に仮面の男は冷や汗をかいた。





「とにかくお前はもうミンチにする」




「百合様、こうきくんはゆうりくんと違い、実戦に長けています。

ミンチにしてしまうにはまだまだかと」





「…なら、成果見せろ」




「…成果?」




「しばらく時間をやるから、ゆうりが死んだとき以上の絶望感を陽翔に与えて、私が面白いと思ったら許してやる」




「そんな…竜胆陽翔は今相当参っているはず…

あれ以上の絶望を、まだ高校生に与えるなど…」




「それ以上口答えするな。

結果が伴ってなかった場合、覚悟しろ。


人豚よりおぞましい方法でお前を殺す」




以前人豚の刑に処された水沼を思い出し、仮面の中で汗が垂れた。




「わかったな」




「………御意」




百合から解放され、仮面の男——こうきは剣を握りしめた。


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