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第六十八話 飽きたわ


仮面の男はスタジアムの真ん中の席で、チャプチャプ泳ぐイルカを眺めていた。

仮面越しから、漂う潮の香りに酔いしれていた。


すると、陽翔(はると)とゆうりが入ってくるのに気がついた。

少しだけ彼らより遠い席に移動し、瞼を閉じた。




———




「ゆうり、きちんと話せよ。

話すって言ったのそっちでしょ」




「そうだな。

お前、俺の父さんを知ってるよな」




「うん」




「父さんは、キャバ嬢が大好きで、若い女が好きなんだよ」




「は?」




いきなりなんの話だ、と陽翔は狼狽えた。

それに、あの爽やかな父親からは想像がつかないような話だ。




戸惑っている陽翔を見て、ゆうりは鼻で笑った。




「お前もメディアばかり信じるのか?」




「ゆうり、どうして急にそんなこと」




「急じゃねぇよ」




イルカが静かにジャンプをし、水音が響いた。



黙ってイルカを眺めた後、ゆうりはポケットから、なにかを取り出した。




「す、スタンガン…」




陽翔はビクッと体を震わせる。




「もう前みたいに躊躇わない」




「や、やめろゆうり。

お前はそんなことするやつじゃない…

お前は本当は優しくていいやつだろ」




「お前だけだよ、そう思ってんの」




「そんなわけない。

だって子猫拾ったり、勉強できない俺らを見捨てなかったり、いつも努力してて」




「ならなんで!」




陽翔の言葉をゆうりは声を張り上げ、遮った。




「ヒーローになれなかったんだよ…!」




「それは…わからない」




「…お前はなんにもわからないんだな」




ゆうりが陽翔の腰にスタンガンを当てる。

わずかに指が揺れた。




「や、やめ…!」




ゆうりはスイッチを押した。




「あぁぁっ!?」



陽翔の悲鳴を聞き、ゆうりは手を震わせた。





「ゆ、ゆうり…」




陽翔は膝をつき、ゆうりを見上げた。




「ゆうり…お前、本当にこんなことしたかったのか…っ」




「…っ」




「あぁぁぁっ!」




ゆうりは震える手で、陽翔の首にスタンガンを押し当てた。




「黙れよ…もう……!」




しかし、陽翔が気絶してくれない。




「なんで、立つんだよ」




「お前が、迷子だからだよ…っ」




「…っ」




「ゆうりの話、まだちゃんと聞いてない…っ!」




スッと陽翔はゆうりに手を差し出した。

まるで、昔ゆうりがしてくれたように。





「俺は…っ、俺はもう…」




「迷ってるなら、一緒にいるから…!

ゆうりがやりたいこと、一緒にやろう…

だから、言ってくれよ…!」





「俺は…俺はただ…!」




「う…っ」




「陽翔…!

だ、大丈夫か」




「ほら」




「?」




「ゆうりは優しいんだよ…」





ゆうりは震えていた手からスタンガンを落とし、陽翔から後退りをして距離を取った。





「陽翔…俺、ただ…」





「あぁ、もう。

飽きたわ」




「え…」




陽翔のぼやけた視界に映ったのは、白い少女に後ろから首を刺されたゆうりだった。

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