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第六十五話 迷子の思い出



ゆらゆらと泳ぐクリオネ。




「おにいちゃん、クリオネさんってすごいんだね、なんも食べなくても1年は生きるんだって」




「ふぅん」




幼い陽翔は、はなの言葉に興味がなさそうに返事をした。

小学2年生の夏休みに、母がゆうりと涼太とはなと陽翔を水族館に連れて来てくれた。



「おにいちゃん、次はメンダコさん

みたい!」




「はいはい、はぐれないようにね」




母が夏休みで混んでるからね、と注意を促した。

陽翔は売店でクリオネのぬいぐるみを見つけ、手に取った。




「はな、これかわいい…

あれ。

いない」




「あれ?

はな?

お母さん?

涼太、ゆうり…どこ」








———



「陽翔は?」



母はすぐに陽翔がいないことに気づき、顔面が真っ青になった。





「おばさん、俺たちはると探すよ!」




「陽翔ならすぐ見つかりますよ」




「貴方たちまで迷子になったらどうするの!」




「おにいちゃん…」




はなは不安気に声を出すと、ゆうりははなの手を握り「大丈夫だよ」と声をかけた。




「すぐ見つかるって」




「いい、お母さん迷子センター行ってくるからここでラッコ見てるんだよ。

すぐ戻ってくるから」




「うん…」




「ゆうりくん、涼太くんもここにいるんだよ」




母はラッコの水槽の前にはなをやると、はなは少し安心したようにラッコを見つめた。

動物はこういったときになにかを察するのか、はなの前で「大丈夫?」とでも言うかのように、ラッコが泳いだ。




————




「どうしよう」



陽翔はキョロキョロと周囲を見渡す。

陽翔は元々表情に出ない淡白な性格なため、周りからは迷子だと気付かれなかった。




「これ買ったら探そっと。


これください」




陽翔はクリオネのキーホルダーをレジに置いた。





————


「もうラッコさん飽きた」




「えぇ…

ほら、はな、ラッコさんこっち来たよ」




「アザラシさん見たい」




「はると見つかったら見に行こ?」




「おにいちゃん探そ!」




「待て待て待て!」




はなは当時5歳程度だったので、気まぐれで好奇心旺盛だった。




「あ、まてよ、はなちゃん、ゆーり!」




ゆうりはせめて3人逸れないようにしなくては…と思い、はなと涼太の手を握った。




「これなら迷子ならないよ、はな、涼太」




「うん!」




「はるとどこにいるかなぁ」




「うーん…」




ゆうりはしばらく考え込み、この水族館で1番目印になるところにいるかもしれないね、と言った。




「なんで?」




「はなさ、イルカショー楽しみにしてたでしょ?

もしかしたら陽翔もそこにいるかもよ」




「ゆーり頭いいな!」



「そんなことないよ」




「とりあえず行ってみよー!」



———





「はな、イルカショー楽しみにしてたなぁ。

もしかしたら先にイルカのとこ、いるかも」





陽翔はマップを見つめ、イルカショーの場所を確認した。



「あれ、こっちで合ってる?」




おかしいな、と首を傾げた。

イルカショーの場所ではなく、普通のイルカの水槽に来てしまった。




「あれ」




何回か来てるはずの水族館なのに。

いつもは父か母に連れられて来ていたからか、わかってるつもりになっていた。




「近くだと思うけど」




目的地に辿り着けないとわかった瞬間、途端に不安になってきた。





「どうしよう」




人が集まってるから、あっちかな。

…いや違う、こっちは別のショースタジアムだ。

思わず、道を逸れてしゃがみこんだ。

唇をぎゅっとし、もう俺はここで生きるという極端な妄想に陥り、もう母にも父にも、はなにも、ゆうりや涼太にも会えず、ここで一生を過ごすんだ…と、絶望した。





「せめてこれあげたかった」




「あー、陽翔いた!」




聞き慣れた声に、顔を上げるとゆうりが「立てる?」と手を差し伸べていた。




「ゆうり…

もう会えないかと思った」




「大袈裟な」




「はると!おれもお前にもう会えないと思った…!」




「おにいちゃーん!」




「みんな大袈裟だなぁ…。

ほらスタッフさんに言って迷子センター行こう」




その後、母と合流し、全員叱られ、イルカショーはお預けとなった。




「イルカさん見たかった…」




「はな。

これあげる」




「わぁ…!

クリオネさんだ!

ありがとう!」




陽翔はにこっと笑みを浮かべた。




「よかったね、はな」




「はなちゃん、つけたげるよ!」




涼太は、はなのポシェットにクリオネのキーホルダーをつける。

するとはなは、きゃーと声をあげて喜んだ。





「また、来ようよ。

次はイルカショーもちゃんと見たいね」




ゆうりはそう言い、はにかんだ。



————




「ん…うーん」




「あ、陽翔くん起きた!」




「あれ…

涼太ん家?」




陽翔は瞼を擦り、部屋を見渡す。




「そうだよー、びっくりしたよ陽翔くんが兄貴の布団に寝てるんだから!」




「お前大きくなったな」




————





「ゆうりくん、どうしたんです。

黄昏て」




「いや……

この間イルカショー見なかったなって」




「イルカショーですか?」




「もう、いいけどさ」





ヴーヴーっとゆうりのスマホが鳴り響く。

ゆうりは画面を確認すると、不機嫌が頂点に達したように、体が熱くなった。



「は?


涼太?」


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