第六十二話 クリオネ
「どうして今日一緒にいてくれたの…?」
はなの問いにゆうりはふいっと顔を水槽に向けた。
「なんでだろうな」
「……
あの、この前歩いてた女の人ってどういう関係…?」
「……お前には関係ねぇだろ?」
「そうだけど…」
それならどうして一緒に今いてくれるのだろうか。
はなにはわからなかった。
「水族館の魚たちって、なに考えて生きてるんだろうな」
「…わかんない」
「海で自然と戦う魚と、水族館で一生が終わる魚、どっちが幸せなんだろうな」
「わかんない…」
「そうだよな」
ゆうりは椅子から立ち上がり、水槽の前に立った。
水槽は人間なんかよりはるかに大きいのに、一生をここで終えるには小さすぎるかもしれない。
「…これからどうする」
「…そうだね、なんか食べに行く?ゆうりくんなにしたい?」
「わからねぇ」
「そっか…」
はながスマホがヴーヴーっと通知で揺れる。
そうだ、学校をサボってしまったのだった。
母どころか父からの通知がずらっと並んでいる。
「まぁいいや」
それより、久しぶりに会えたゆうりといたい。
はなはスマホの電源をそのまま切った。
———
『陽翔、はなと連絡がつかないんだけど、なにか知ってる?」
「知らないけど」
陽翔は昼休みに母から、はなが登校していないと知らされた。
『連絡もつかないのよ、陽翔からも連絡して』
「はいはい」
母からの通話を切り、陽翔はデバイスを開き、はなの現在地を検索する。
「学校サボって水族館いるじゃん」
はなが学校サボってわざわざ水族館に行くなんて珍しい。
そういえば、昔、親父に連れて行ってもらったな。
涼太とゆうりとはなと、俺で。
「水族館か」
一体誰と行っているのやら。
「はなはクリオネ好きだったな」
陽翔はなんとなく、動画サイトでクリオネを検索すると、ふと目についた動画を再生した。
「クリオネの捕食シーン」
それは普段のクリオネからは想像もつかないような食事風景だった。
その動画を見て、ゾワッとした。
「なんか…なんだか…」
あの、白衣の男を連想させる。
なんだか嫌な予感がする。
「はな…」
まさかまた変なことに巻き込まれていないだろうな。
陽翔は、はなのスマホに通話をかけたが、繋がらなかった。
「はな…」
———
「ねぇ、見て、ゆうりくん!
夜の水族館、貸し切りにできるんだって!
いくらするんだろ」
「夜の水族館?」
ゆうりはポスターをまじまじと見つめた。
貸し切り…と言っても2、3時間だけらしいが。
「へぇ…」
「すごいねー、行きたい!」
「はなってさ、海洋生物詳しいの?」
「うん、好きだから結構調べちゃうんだよね」
「あのさ」
ゆうりはポスターから目を離さずに言った。
「蟹以外で人を食べる魚ってどれ?」
「………
え?」
「あ、悪ぃ、なんでもない」
百合に教えたら喜ぶだろうと、ゆうりは思わず聞いて後悔した。
ゆうりがスマホを見て、もう夕方か、と呟いた。
「そろそろ帰るか」
「うん…」
「あのさ…
俺たちもう会わない方がいいと思う」
「ピラニアとかではないと思う、かなり臆病なんだよ!
でも鮫と同じで血の匂いとかには敏感みたいだから、わかんない!
あ、あと海老とかもそれでいったら蟹と同じかもね!
カンディルってピラニアより人襲うみたい!」
「く、詳しいな」




