第六十一話 水族館
「もう少し一緒にいて…」
はなはやってしまったと、内心真っ青になった。
優等生のゆうりが学校をサボって、一緒に遊びに行くわけないじゃないか。
「いいよ」
「え」
「どこ行きたい?」
意外な返答にはなは自分がまだ家で寝ているのではないか、と疑った。
こっそり手をひっかくと地味に痛かったので、夢ではないんだと認識した。
「ゆうりくん、なんか食べた?」
「食べてない。
なんか食べに行くか」
どうしよう、せっかく湧いてきた食欲が、今度は緊張で失せてきた。
こんなことならもっと可愛くしてくればよかった。
「私、カフェのモーニングなんて初めてかも」
「俺もそうかも」
ゆうりがココアを注文してくれたのを見て、まだ私の好きなの覚えてたんだ、とはなは高揚した。
「今日一日なにがしたい?」
「え…、どうしよう」
なんだか、ゆうりじゃないみたいだと違和感を覚えた。
笑い方が少しだけ大人っぽくなったような気がした。
「はな、小さい頃水族館が好きだったよな」
「うん」
そんなことまで覚えてたの!
と、恥ずかしくなった。
「水族館に行くか?
それとも、はなが最近好きな場所行く?」
「…ゆうりくんは行きたい場所ないの?」
「ないよ。
はなと一緒なら別にどこでもいいけど?」
——なんだろう、先程からの違和感が拭えない。
どうしていきなりこんなことを言ってくれるんだろう…
でも、1日ゆうりと過ごせるならいいか、と納得をした。
———
「かわいい…」
はなは水槽でゆらゆら動くクリオネを眺めた。
「あ、ちょうど餌あげるってゆうりくん」
「ああ」
クリオネは可愛らしい見た目に反して恐ろしい捕食をするらしい。
はなはテレビでしか見たことない、クリオネの食事シーンに釘付けになった。
「こんなかわいいのに…」
「そうだな…」
はなはクリオネを見つめるゆうりの横顔を見て、ギョッとした。
とても怖い顔だ。
ゆうりは不機嫌な表情をよく浮かべるが、こんな怖い顔初めてだ。
「ゆうりくん?」
「あ、あぁ…」
「クリオネ、嫌い?」
「あ、いや…
知り合いに、似てると思って…」
「知り合い?
クリオネに似てるなんてかわいい人なんだね」
フッとゆうりが笑った。
「かわいい?
かわいくはねぇな。
お前も会ったことあるよ」
「え?共通の知り合い…?」
そんな人いたかな、と考えていると、ゆうりは「あいつがかわいいとか」と、吹き出して笑った。
よかった。
ゆうりくんが笑ってくれてる。
「あ」
ゆうりは蟹の水槽前で立ち止まった。
「?」
「こいつ知り合いの家にいるのと一緒のだ」
それどんな知り合い?
というより、結局あの一緒にいた女の人が彼女ではないならどんな関係性なのだろうか。
もしかして、知り合いってその女性のことなのだろうか。
「蟹を飼ってるって…すごい人だね」
「そうだな…」
ゆうりは蟹を見つめ、なにかを思い出したのか口を抑えた。
「うぇ…っ」
「だ、大丈夫?!
体調悪いの?」
「……いや、大丈夫だ」
「少し休も、ほら、椅子あるから座って」
「あぁ…」
ゆうりの顔が青ざめて見えるのは、水槽の反射なのだろうか。
それとも、具合が悪いのに無理に来てくれたのだろうか。
「ねぇ、ゆうりくん」
「ん?」
「どうして今日一緒に来てくれたの?」




