第五十九話 簡単じゃないか
「ゆうり」
朝、登校するゆうりを見かけ、陽翔は声かけた。
しかし、ゆうりは一瞥だけし、無視して行ってしまった。
「ゆうりさ
小学生のとき拾った猫どうしたんだっけ」
その瞬間、ゆうりがぴたりと止まり、ゆっくりと振り返った。
「二度とその話すんなよ」
「え…?」
ゆうりは陽翔の胸ぐらを掴み、同じ言葉を繰り返した。
「二度と同じこと聞いてくんじゃねぇよ」
「ゆうり…」
ゆうりは乱暴に陽翔の胸ぐらを離し、振り返ることなく行ってしまった。
「ゆうり…」
———
「女の子を連れて行くの、抵抗ある?」
「そりゃ…」
「そうよね。
わたくしも最初そうだったわ。
でも大丈夫、慣れていくわ」
ミヤコはふふっと上品に笑った。
「いい?
女の子には共感と肯定さえしていればいいの。
あなただって、そうでしょ?」
「………」
ミヤコはいつまでもだんまりなゆうりに苛立ちを覚えた。
いつまでも、純情だこと。
「さぁ、話しかけにいきなさい」
「…わかったよ」
わかってもらわないと、じゃなきゃあなたが死ぬもの。
「あの…」
「?」
「え……と」
ゆうりに話しかけられ立ち止まった女性は、なにも言わないゆうりに疑問符を浮かべ行ってしまった。
「まったく、下手くそだこと」
「うるせぇな」
「お世辞でもなんでもいいから言いなさいよ」
「かわいい顔してるんだから、武器にしなさい」
そう言うとゆうりはきょとんとしていた。
顔がいいという自覚がないらしい。
「………
ゆうり君は、同い年より、年上に受けそうね」
「え……なんで?」
「だってあなたかわいい系じゃない」
「そう…か…?
いや、でも百合は若い子好きだろ」
「そうね。
若い子ね。
でも別にいいのよ、使える美人が見つかれば」
ゆうりは、ああそういうことか、と少し納得した表情を浮かべた。
「わたくしのように技術や知識があれば、人材派遣。
使えなければ他の労働や売買につながるでしょう?」
「あなただって、梅様に認められて入ったでしょう?
そういう人を見つけるのも、お仕事よ」
「……そうか…」
「あなたは連れていくだけ。
あとどうするかは上が決めることよ。
あなたは連れていっただけ。
悪いことしてる?」
貴方に責任は生じないわ、だってあなたが仕事を紹介するわけでもないし、食べるわけでもないんだから。
そう言い、ゆうりの視線の先にいた10代後半か20代前半の女性を指差した。
「ほら、お姉さんに声かけてきなさいよ」
「………わかったよ」
ゆうりは躊躇いがちに、女性に声をかけた。
「お姉さん…」
「ん?」
「よかったら…」
————
「ゆうりくん、随分な美人さんを引きましたねぇ」
いい子いい子、とゆうりの頭を梅は撫でた。
「ですが、彼女は百合様には選ばれなかったので別に使わせていただきますね。
そっちも人手不足だったので、助かりました」
「そうか…」
ゆうりは梅の手を払い、部屋を出て行ってしまった。
「どうですか、梅様。
ゆうり君が初めて仕事しましたよ。
これなら陽翔君は黙ってませんよね?
きっと、盛り上がりますよね?」
ミヤコの言葉に、うーん、と梅は顎に手を当てて考える。
「もう少し派手な演出がよかったけど…ミヤコさんがここまでゆうりくんを成長させるなんて思わなかったな」
「うふふ、教官の真似は得意なんです」
少しくらい褒めてくれてもいいのに、とミヤコは拗ねた。
まぁ、いい。
もっとゆうりと陽翔を派手に動かせばきっと認めてくれる。
ミヤコは、どうするべきか考えるため、映画でも見ようかな、と思った。
「初めての仕事に戸惑うゆうりくん…
かわいかったですね」
梅は頬を紅潮させ、ミヤコに同意を求めた。
わたくしにはそんな表情浮かべないくせに!
と、腹が立った。
————-
ゆうりは、更衣室で今日のことを思い出した。
声をかけたら、すぐに着いてきた年上の女性。
大した事はなにも言ってないし、してない。
「なんだ…
大したこと、ないな」
父親のスパルタ教育に比べたら、簡単なことだと気づいてしまった。
「はっ」
俺を馬鹿にしたこと、絶対見返してやるからな。




