第五十七話 話を聞いて
涼太は特待生として今の学校に入学し、部活にも入ることができたため学費は免除されていた。
シングルマザー家系で弟と妹のことを考えればかなり助かる話だった。
涼太は知っていた、ゆうりの父親も同じ学科出身であったことを。
ゆうりは推薦で理系学部に進んだ。
ゆうりなら高校は選び放題だ。
きっと学科は違っても、父と同じ学校に通いたかったんだろう、と、バッティングセンターでバットを振りながら涼太は思った。
陽翔は俺も2人と同じ学校がいい、と毎日目の下に隈をつくりながら勉強していた。
陽翔とゆうりと3人で野球をやっていたときは楽しかった。
今も楽しいけれど、あの時が一番楽しかった。
もう2人とも野球をやっていないが、時々陽翔とはバッティングセンターに一緒に行く。
昔はゆうりもいたけれど、高校入学を境に、誘っても来なくなってしまった。
自分が嫌われているからか、特になにかした記憶はないのだけれど。
なにか無神経なことをしたのか。
どうして、ゆうりはあんなひどい場所を選んで行ってしまったのか。
ゆうりがなにを考えているか話したいと思った。
ただ昔みたいにキャッチボールができたら、と思った。
涼太はゆうりを思い、バットを思い切り振った。
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「お話しましょう」
「話すことなんかないけど」
「あら、じゃあわたくしの話を聞いて」
「はぁ…」
「わたくしね、妹がいたの」
「妹…?」
「そう。
もういないけどね」
「あなたと同じくらい不器用だったけど、繊細で壊れそうな子だったわ」
「…」
「あなたも必死なのよね?
わたくしもここに入った時は、いつも両親たちのことを考えたわ
わたくしね、帰る場所がないの。
両親たちは生きてるけれど」
「…」
「警察官一家だから、わたくしがこんな事してるなんて知ったら、どうなるかしらね」
「ここにいる人はみんなそうよ。
みんな帰る場所があるけど、帰れないの」
「…」
「わたくしはわかるわ、助けてって言ったら助けてくれる人がたくさんいるの
でもこの現状から助かっても、どう生きていけばいいかわからないわよね」
「別に…」
「だってもう死んだと一緒だもの」
「え…」
「誰もわたくしたちは助けてくれない。
いつだって目に見えるだけの、被害者だけ」
「……陽翔や涼太は…」
「あらわたくし、陽翔くんたちの話はしてないわよ」
「あ…」
「陽翔くんや涼太くんはゆうりくんのこと、助けてはくれないわ。
ヒーローなんてそんなものよ」
「あなたと同じよ
わたくしも蜜樹も日向も」
「それは」
「ここがバレたらわたくしたち、終わりよ。
だから、あなたの居場所を、わたくしたちの居場所を、守らなきゃ」
ゆうりは、ミヤコから目を逸らした。
しかし、意識はミヤコから逸らすことは難しかった。
「知ってる?
ここはね、特別美しい容姿を持っていることと、特筆した才能がなければ、入れないのよ」
ミヤコは足を組み直し、紅茶を啜った。
「ここがバレなければ、あなたを受け入れてくれた場所は守られ続ける。
それを正義面した子たちが、壊そうとしているのよ。
あなたの人生のことなんて、なんにも考えてないわ」
優雅に紅茶を飲むミヤコはまるで毒を持った蜘蛛のようだ。
「陽翔くんたちをどうにかすれば、家族や学校に知られることはないわ」
「…っ」
「あなたも時間がないでしょう。
一緒に最後まで、いましょう」




