第五十五話 わざと
小学6年の時に、骨折をした。
入院することになり、当然父と母はここぞとばかりに毎日お見舞いに来た。
社会からの好感度稼ぎに。
看護師は「毎日お父さん忙しいのによかったね」とにこやかに言った。
「今日?
も〜しょうがないな」
父は個室でベッドに足をかけながら通話をしている。
相手は誰だろう。
新しいお気に入りのキャバ嬢だろうか。
「くしゅっ」
父はくしゃみをしたゆうりの足を蹴った。
静かにしろって言ってる。
母も毎日父と入れ替わりで訪れるが、部屋に入るとずっと無言でスマホをいじっているだけだった。
味気ない病院食は完食できた。
1日3食出てくるのは久々だなぁ、と外を眺めながらぼんやりした。
母の作るカレーライスが好きだったが、最後に食べたのはいつだったったか覚えていない。
父と母以外は面会することができなかった。
父が恥ずかしがったから。
事故で息子が怪我したのが恥ずかしいから。
————
梅の白衣を見るたびに、この時のことを思い出す。
「事故じゃないんだよ」
——あの日、わざと怪我をした。
まさか骨折するまでいくとは思わなかったけれど。
自分でも地雷行為だと思った。
だけど、変わらなかった。
こんなとこにいるって知られても、きっと父はこう言う。
「俺の名前に傷をつける気か!」
と。
助けてと言ったらきっと助けてくれる。
なぜなら、自分の名前が地に落ちるのがこわいから。
「別に…いいよもう…」
「俺ってなにしたかったんだっけ」
認められるために野球をした。
認められるために勉強をした。
社会の歯車だけにはなりたくなかった。
でもいつの間になってた。
ならもうやることは変わらない。
もう野球をやることも、ヒーローになることもない。
「ゆうりくん、こんばんは」
日向は、すてるものなどないんだろうな。
少し、日向が羨ましい。
ここにいる奴ら、みんな色々すててきたのだろうか。
そもそもこんな犯罪組織に入ってしまった時点ですてられない自分が間違えていたんだ。
「ゆうりくん顔怖いよ、
あ、いつもか」
「うるせぇ」
ゆうりはスマホのカメラロールから陽翔と涼太の画像を削除した。




