第五十四話 死んだも同然
「お前なにした?」
「はい…」
「お前ここにきてなにした?」
百合はゆうりの頭を踏み付け、グッと力を入れた。
「若い女を連れてきたら許す、とびっきり美人の」
「そんな…」
「水沼みたいになりたいか」
百合は水槽の蟹を指差した。
「い、嫌です…」
「なら仕事しろ」
「お前、竜胆陽翔と若松涼太の幼馴染なのに、なんでなにもしないの?」
「それは…」
「死にたくないなら、男娼でもするか?」
「いやです、いやです…」
百合に解放され、ゆうりは唇を噛み締めた。
どうしよう、水沼みたいな残酷な死に方も、売られるのも嫌だ。
「…でも」
長い間、連絡もせず、家に帰らなくても探してくれなかった両親。
そんなの、死んでるのと同じではないのか。
「なんで、ゆうりをスカウトした?」
「陽翔くんの幼馴染で、百合様に名前が似てる。
尚且つ有名人の息子で、とても美しい容姿だから。
最高の役者さんですよ、これからどうなるか楽しみですね」
百合と梅は血が入ったワイングラスを傾けながら、談笑する。
「それならまだ生かすか」
「あら、じゃあもう死んでもいいと思ってたんですか」
「当たり前でしょう、梅が面白くなるって言ったから入れただけ」
「泣いちゃいますよ、ゆうりくん」
まぁ、男にしては美しいけど、と百合は付け足す。
「ゆうりが死んだら…陽翔はどんな顔する?
きっと私が好きそうな顔をする…」
百合はワイングラスに映る自分にうっとりしながらうわ言のようにつぶやいた。
「美人な子って言ったって…」
ゆうりは街中を歩く女性を眺めながら、ボソッとつぶやいた。
「わかんねぇよ」
今まで自分のことも、他人の容姿を気にすることなどなかった。
それに、声をかけて、連れて行くだなんてハードルが高すぎる。
「もういっそのこと…」
飛ぶか…?
いや、学校も家も知られている。
「でも…」
家なんて帰ったところで、また知らない男がいるかもしれない。
どうせ今だって、帰ってないのだから関係ないのかもしれない。
学校は…教師だっているし、もしかしたら、なんとかなるかもしれない…それならいっそ…
「やめられないですよ?」
「ひ…っ!?」
梅がゆうりの顔を覗きこみ、静かに言った。
「な、なん…なんでここに…!?」
「ゆうりくんが真面目に働いてるか、百合様に言われて来たんです。
人使いが荒いったら」
梅はやれやれ、と肩を回しながらため息をついた。
「いや…なんで、やめるって…」
「顔に書いてましたよ」
「書いて…そんな…」
「ゆうりくん、やめるなんて簡単にできませんよ。
ましてや、飛ぼうだなんて考えてませんよね」
「は、は…」
「ゆうりくんはもうこの組織の仕組み、わかってますよね。
なら、どうなるか、わかりませんか」
「そ、それ、それは…っ」
「もし、逃げたりしたら…
骨までなくなる事になりますよ」
梅はゆうりの頬をつかみ、ふにふにといじる。
「あ、あぁ…」
ゆうりは震える手を押さえ、梅を睨む事しかできなかった。




