第五十二話 くださいよ
「かわいい身体に傷をつけるなんて許せません」
大丈夫、ミヤコさんがいますからね、そう梅はつけ足した。
「俺、テスト期間だから」
梅と長くいてはおかしくなると思い、会話もそこそこに帰ろうとしたが、梅に後ろから抱きしめられた。
「私は、ゆうりくんの髪の毛がお気に入りなんです」
「そ、そう、か…」
「ねぇ、少しだけ…ね?
くださいよ」
「離せ!」
ゆうりは梅の腕を振り払い、慌てて部屋を出た。
「は…は…っ」
ゆうりは震える自身の手を握り、目をぎゅっと瞑った。
「俺…なにしてんだ…」
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『父さん、あのねー、大きくなったら父さんみたいな野球選手になりたい!』
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『父さん、俺、学校で友達2人できたよ!』
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『大きくなったら俺と野球するんだろ!?
なら死ぬ気でやれ!!
人より劣った能無しが!!』
『父さん、ごめん、ごめん
ちゃんとやるから、怒らないでください…っ!』
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「俺は…」
ゆうりは顔を覆い、その場に膝をついた。
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「なにが足りないんだろ」
「勉強時間だろが」
陽翔は窓の外を眺めてつぶやくと、あおいにポカっと頭を叩かれた。
「まぁそれもそうだけど。
なんで前回外されたんだろって」
「お前の成績が壊滅的だって、勝さん言ってたぞ。
だからだろ?
はやく問題解け」
「…あい」
あおいが思うに、陽翔は少し平和ボケをしている気がした。
多分、失うことの恐怖、当たり前に明日が続くと陽翔は思っている。
そんな陽翔を壊したくない、当たり前を信じすぎている事が危険だと、アザミは思ったのかもしれない、あおいはそう推測した。
「あくまでオレの推測だけど」
「え?」
「なんでもない。
いいから勉強しましょうねー」




