第四十八話 歴史
昔から、若く、穢れのない命を喰らえば若返るという言い伝えが残されていた。
百合の父は海外でマフィアのボスを務めており、この話をよくしてくれていた。
正直馬鹿馬鹿しい伝承だったと思うし、にわかに信じがたい話だと感じた。
ある日、侍女の口が乾燥により血が出ていた。
「醜い」
「も、申し訳ありません」
百合はケアが行き届いていないことに、異常に腹が立った。
しかし、侍女の口から少しだけ、ほんの少しだけ出ている血から目が離せなかった。
侍女の顔に手を添え、唇を重ねた。
その血を舐めたとき、少しだけ力が沸いた気がした。
次の日、やたら肌ツヤがいいことに気がついた。
ケアは毎日していることと変わりない。
食事だってなにか特別、なにかを変えたわけではない。
なにか変化あったとしたら…
もしかすると、あの伝承は本当なのだろうか。
百合は針を手にし、侍女の指に突き刺した。
「っ…!?なにを」
百合はその指を自身の口に持って行き、血を吸う。
甘い。
翌日
ますます肌は若返り、透明感が増した。
父は若々しいと評判だったのだ。
梅を連れて、時々どこかへ出掛けては、3日ほど戻らないことがあった。
百合は確信した。
「百合様、ご用でしょうか…」
百合は中華包丁を侍女に振り翳し、躊躇いなく振り落とした。
百合は数日に分けて、冷たくなった侍女を口にした。
もう、何年生きているのか分からない。
梅と同じことを続けるうち、
日本のアイドルを目にした。
好みだった。
生まれつき、アルビノで生まれた百合と梅。
中国では白が不吉とされており、父は大層百合の白い髪や肌を気に入り、溺愛した。
特別だ、かわいいのだと繰り返し教えられて育ち、
百合はこの美しさを疑うことなく誇りに思っていた。
土地を渡り歩き、死神や吸血鬼など様々な名前で呼ばれた。
梅とは主従関係であり、恋人であり、運命を共にする。
私たちの歴史に憧れ、夢を見た馬鹿に地獄を見せてやろう、お前もそう思うだろう、梅
長い歴史を繰り返す内に変貌を遂げたキバが生えた口を歪ませ、笑い声をあげる、百合を見た男は恐怖で顔を歪ませた。
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処理を終えたミヤコは百合のため、風呂の準備をした。
「あんな女のために、時給は発生しないのに」
ガリガリと爪を噛む。
しかし、梅からのご褒美さえあれば頑張れる。
百合は真っ赤な湯船に浸かりながら、少女の指を噛みちぎる。
「私たちの歴史をみくびる者は、すべて地獄に堕ちる。
今までもこれからも」
そう言い、百合は穢れなき少女の血が入ったワイングラスを無邪気に飲み干した。




