第四十六話 口紅
陽翔は池の鯉を静かに眺めた。
「なんで」
外れろって。
なにが足りないんだろう。
「貴殿は悩んでいるのだな」
聞き覚えのある声に陽翔は振り向く。
「仮面の人」
陽翔はグッと身構えると、仮面の男は鯉に餌をやりに来ただけだと、売店で売られていたであろう、餌を撒いた。
「なにしにきたんだよ」
「何度言えばわかる。
鯉に餌やりと言っただろう」
剣は携えていない。
本当に餌をやりにきただけなのだろうか。
「剣は」
「旅館に私の剣は必要ではない」
「気分転換に街に出るといい」
「…」
餌がなくなってしまった、と、仮面の男は手をパンパンと払った。
「ねえ」
「なんだ」
「なんでいつも仮面つけてるの」
「貴殿だって変身すれば仮面をつけているだろう。
同じことだ」
違うと思いますけど。
陽翔はそう言いかけたが、ラナが走ってくるのを見かけ、ラナに駆け寄った。
ラナがよろけ、陽翔は受け止めた。
「あぶない」
「あ、ありがとう」
「ふ、それでは」
仮面の男はそう言い残して、去ってしまった。
「本当に餌だけあげにきたのか…」
「あ、あの人なんなの?
怪しすぎる…」
それな。
そうつぶく陽翔にラナは胸が痛んだ。
今なにもできない自分にラナは苦しそうに顔を歪めた。
「大丈夫だから」
「あ、うん…」
「………」
部屋から見下ろす影に、陽翔もラナも気づかなかった。
次の日。
「陽翔、検視にまだ時間かかるみたいだし、一緒に出かけない?」
ラナはそう明るく陽翔に話を振った。
「うん。行く」
「!そっか」
ラナはるんるんと出かける準備を進めた。
順調に進んでいたが、リップを取る手を止めた。
2種類持ってきている、リップ。
どっちを使おう。
ラナはいつも使っているリップを片手に静止してしまった。
「…」
思い切って、新しいリップを使ってみることにした。
いつも使っている、ローズピンクではなく、少し深みなある赤いチェリーのような色だった。
…陽翔の髪色に似ている。
そう思い、気づいたら買っていたリップだ。
「陽翔、お待たせ」
「大丈夫。
………」
あれ、気づいたのかな。
ラナはドキドキと、陽翔の顔を見つめた。
「…??
なんか変わった…?」
ま、そんなものだよね。
少し肩を落とし、ラナは陽翔の手を引いた。
街に出ると、陽翔は少しだけ口角が上がった気がした。
ラナはそんな陽翔を見て、よかった、と胸を撫で下ろした。
「ラナ」
「ん?」
「牛乳飲みたい」
「よかった、変わらないね」
「うん」
ちょっと待ってて、と陽翔はコンビニに入り、ラナは座って飲める場所がないかとスマホを開いた。
『ごめん、コンビニ混んでる。
ラナのも買ってく』
『大丈夫。
公園でゆっくり飲もう』
ラナはそうメッセージと地図を送り、一足先に公園のベンチに腰掛けた。
———
人はお店の方に行っているようで、公園は人気がなかった。
広い公園のようで、ラナは深呼吸をした。
ラナは、どんなおしゃれをしたら、陽翔は気づいてくれるかふと思った。
「陽翔は、どんな子好きなのかな」
そうつぶやくと、後ろから口を塞がれた。
ラナは咄嗟に後ろに体を倒し、口を塞いだ者は驚き手を離した。
すると男はナイフをラナの手に振り下ろし、ラナは手に大きな切り傷ができた。
「…っ」
「しね!しね!醜い女が…」
なんだ、この男は…
どうしてこんなに私に憎悪と嫌悪を露わにしているの?
「ブスがよ、死ね!」
「ラナはブスじゃない」
陽翔は男に牛乳をかけた。
「赤い口紅が似合うラナがブスなわけないだろ」
「な、なんだこれ、牛乳…?」
「お前か。女の子たちを攫っていたの」
「だ、だったらなんだ。
俺は醜いやつらが嫌いなんだ、お前も醜いな、あの方たちと比べたら!」
「誰だよ」
「知らないのか、あの素晴らしい方々を」
「知らない」
「低脳が!!
あの方たちは、素晴らしく素敵で、美しくて、あの方たちが、醜い人間なんかと共存していいわけない!
だから俺が始末してんだ!
醜いやつらなんか死ねや!
理解できない低脳はしね!」
「1番醜いのはお前だよ」
「ああそうだよ!!
でもあの方たちの役に立ってるんだ!
なぜなら醜いやつらを始末してんだから!
お前みたいなブスや低脳の方が嫌われるんだよ!」
「そんなことはありません」




