第四十三話 外れろ
「あっついねぇ、ゆうりくん」
「あ、あぁ…」
なんでこいつ、平然としてられるんだ?
ゆうりは日向の口から「孤児院育ち」と聞き、普通に接してくることに、戸惑いを覚えた。
結局カミングアウトをされただけで、特に深い事情を聞くことはできず、今に至る。
しかも今一緒に露天風呂入ってるし…。
「気持ちいいね」
「そうだな…。
あのさ、お前が時々話す…
ラナって誰?」
「僕のヒーロー」
日向はそうにこっと微笑んだ。
「あ…そ」
ゆうりはそれ以上聞く気になれず、湯船をあがった。
「あ、ゆうりちゃんもあがったの?」
暖簾をくぐるとちょうど蜜樹も上がってきたらしく、頬が熱でほてっていた。
髪をアップにしており、ゆうりは思わず顔を逸らす。
「ご飯おいしかったぁ〜」
ちょうどゆうりと蜜樹の前を満足そうに少女が通りかかった。
「(あああああああ、あ、あお、あおいちゃん!!!!???!
な、なんでこんなとこにいるのおぉぉ!?!?)」
蜜樹は顔を真っ赤にし、ゆうりを思わず抱きしめた。
「ぐぇっ、蜜、ぐ、ぐる…くるし…っ」
「しーっ!」
あおいは不審に思ったのか、振り返ったが、すぐに行ってしまった。
「ご、ごめんね、ゆうりちゃん、恥ずかしくて思わず…
ゆうりちゃん?
ゆうりちゃーーーん!!!」
ゆうりは窒息死するかと本気で思った。
部屋に横になり、「のぼせちゃったのかなぁ」と呑気に言う日向と蜜樹にうっすら殺意が芽生えた。
「陽翔」
「ラナ」
「初めて温泉入ったけど、こんなに広くて綺麗なんだね!
感動した」
「よかったね」
陽翔はラナに買ったばかりの牛乳を差し出し、ラナは戸惑いがちに受け取った。
陽翔が牛乳を飲む姿に、ラナは胸が締め付けられた。
「なに」
「ううん、なんでも」
「2人ともここにいたの」
アザミも温泉から上がってきたようで、ラナの隣に座った。
「ねぇ…アザミさん」
「なに、ラナ」
「妹さんってどんな人だったの?」
ラナがそう尋ねると、アザミはすっと目を閉じた。
「上の妹は堅実派で倹約家で…検視官になるために頑張ってた。
下の妹は…とにかく明るくて、流行ものが大好きな今どきの子だった。
正反対な私たちだったけど、仲はよかったはず」
「そう、なんだ…はなちゃんは?どんな子?」
「はなは別に普通」
「普通か…」
「ラナ、なにかに悩んでるの?」
アザミは優しくラナに問いかける。
「私…今日、来れたの嬉しいんです。
こんな状況だけど…
でもそれと同時に、怖くて」
「こわい?」
「いつ、みんなとお別れになるか」
「私も同じことを思っていたよ、ラナ」
「2人ともそうなんだ」
「陽翔は、こわくないの?」
「こわいよ。こわいから、今みんなといる」
「本当はここに来たくなかった、前みたいなもの見るんじゃないかって。
でもアザミさんや涼太やラナやあおいが支えてくれてる。
だからこわくても立てる。
だから俺もラナやアザミさんを支えたい。
それだけ」
「当たり前にみんながいる。
だから頑張れる」
「そっか…」
「………」
「アザミさん?」
「陽翔、やっぱりお前は今回外れろ」
「…え??!」
————
「疲れた……でも梅さまの頼みだからな…梅さまの頼みじゃなきゃ、割に合わないっての」
「お待ちしてましたよ、ミヤコさん」
「梅さま…!」
会いたかったです、とミヤコと呼ばれた女性は微笑んだ。




