第四十二話 温泉宿にて
滋賀県大津市。
陽翔は重たい足取りで駅に降り立った。
また、凄惨な事件を目にするのだろうか。
アザミはとりあえず宿に荷物を置いて、チームで別れようと提案をする。
アザミ涼太
あおいラナ………
「俺は」
「温泉につかってろ」
「な、なんで」
陽翔は1人ぽつんと宿に残され、部屋の中で立ち尽くした。
どうしよう…
陽翔はスマホを開き、一連の事件を調べる。
確かに、あの白衣の男たちがこんな雑な事件、連発するわけがない。
完璧にこだわる集団だということは、陽翔が嫌というほど知っていたからだ。
みんなが調査してる間、1人で温泉に浸かれるはずもなく、陽翔はロビーへと向かった。
売店で牛乳を買い、そわそわと動き回り、宿の人に不審そうに見られる。
とりあえずソファに座り、牛乳瓶を煽った。
「なにか心配事ですか?」
「!!?」
陽翔は思わず、牛乳瓶を落としそうになり、慌てて握りしめた。
「な、なんで…、お前こんなとこ…っ」
「偶然ですね、陽翔くん」
そう、白衣の男…(今日は白いコートを着用しているようだ)梅は、頬を赤らめ、ニヤリと笑った。
そんなとき、外から悲鳴が聞こえた。
「!?」
「なんでしょうか?」
陽翔が急いで悲鳴が聞こえた庭園へ飛び出すと、仲居さんが腰が抜けて座り込んでいるのが見えた。
「大丈夫ですか」
「あ、あ、あぁぁ、あれ……っ」
庭にある手入れされた植木の上に、人の手が置かれていた。
「随分と手荒なやり方ですね」
「お前がやったんだな」
「なぜ」
「だってやりそうだから」
「適当な推理ですねぇ」
違いますよ、と梅はため息をついた。
とにかく、アザミに連絡をし調べてもらう事にした。
仲居さんも少し落ち着き、警察を呼ぶ。
「お前も逃がさない」
「おや、私はなにもしていないので捕まる理由はありません」
なにを悪びれもせず、こいつは。
宿泊している人間が集まり、変身をするわけにもいかない。
「陽翔くん、私は怒ってるんですよ。
どうです、犯人を捕まえるために貴方の手を借りたい」
「は?」
「手を組もうと言っているんですよ」
「誰がお前と」
「おい」
「ゆうり」
ゆうりも来ていたのか。
久しぶりに会ったゆうりは相変わらず不機嫌そうに眉をつりあげ、口をへの字に曲げている。
元気そうだ。
「ゆうりをこんな凄惨な事件に巻き込むな」
「ではそうするために手をかしてください」
「やだ。
そのかわり」
「?」
「今回は見逃す。
滋賀にいる間だけ」
「ふふっ」
「そのかわり、滋賀いる間に、人を殺したりしたらすぐ捕まえるから」
「いいでしょう」
陽翔はゆうりに駆け寄り、これ以上見せたくないと、手を引き宿に入った。
「引っ張んな!」
「久しぶりゆうり」
あ、あぁ…とゆうりは言葉に詰まり、顔を逸らした。
涼太ももうすぐ帰ってくるが、会わせない方がいいだろうか。
涼太もゆうりに会いたいだろうが…ゆうりは違うだろう。
「離せって」
「ごめん」
「ゆーり!」
ゆうりはゲッと嫌そうな表情を浮かべた。
涼太と鉢合わせしてしまったから。
「ゆーり、元気そうでよかった!
なぁ…また東京戻ったら」
「戻るわ。じゃあな」
涼太の言葉を遮り、ゆうりは自身の部屋へと戻ってしまった。
「涼太…」
「ゆーりは相変わらずだな」
「うん、そうだね」
陽翔は現地の警察に事情聴取をされ、すっかり夜になってしまった。
「アザミさん」
「なんだ」
「なんで陽翔に残ってろって言ったんですか」
涼太はアザミに静かに尋ねた。
「あいつは今怯えている。
少し休んでほしかった」
まさか休ませたらあんなもの見てしまうとは、とアザミは付け加えた。
「ヒーローは休んではいけないわけではないけれど…切っても切り離せないものだということを、改めて学んだ」
アザミはそう低く呟いた。
涼太はお茶を汲み、そっとアザミの前に差し出した。
「ありがとう。
涼太は優しいな」
「そんなことないですよ」
明るく穏やかに笑う涼太に、妹には生きていたら、こんな男と付き合ってほしかった、と思った。
こんなときに考えることではないが、ラナや涼太や陽翔を見ていると、どうしても妹2人が生きていたら………と考え込んでしまう。
だからこそ、悩む若者を、なるべくこんな場面に居合わせたくなかったし、こんな事件に巻き込みたくなかった。
———また、失うかもしれない。
自分はとんでもないものを開発してしまった。
神様、どうしてこんな未来ある若者たちが、巻き込まれなければいけないのですか。
アザミは嘆いた。
「涼太。
「困った事があればなんでも言え。
出来ることはなんでもするから」
アザミはそう言い、月を見上げた。
「困ったこと、かぁ…
アザミさんが笑ってくれない事かなぁ…」
まぁ今の状況じゃ、笑えないかと涼太は付け加え、苦笑いを浮かべた。
「そう…笑えないのは、私も困ってる」
アザミはそうため息を吐き、目を伏せた。




