第三十九話 弱点
朝10時
ゆうりはコーヒーを片手に参考書を読んでいた。
優雅、かもしれない。
「おや、日向くん
私を的に射撃ですか。
さぁ、私の心臓を撃ち抜いてごらんなさい」
「梅くん、気づいてたの」
異常な男2人が後ろにいる…
むぎゅっと後ろから圧がかかる。
この感触は…
「おはよ、ゆうりちゃん」
「蜜樹…」
ひくっとゆうりは顔が引き攣る。
「毎回毎回近ぇんだよ!」
顔を真っ赤にし、キャンキャンと吠えるゆうりに、蜜樹はニヤニヤと笑みを浮かべた。
「ゆうりちゃん、今日もかわいい」
「〜〜っ」
そのとき、天井からポトっとなにか落ちてきた。
「あ、蜘蛛…」
「きゃー!!」
蜜樹は小さな蜘蛛に怯え、ゆうりに抱きつく。
「く…くるし…っ」
「きゃーきゃー!」
その様を見て、梅は蜘蛛をプチっと潰す。
「あ、朝出た蜘蛛を殺したな」
「それがなにか」
梅は手を拭きながら淡々と答える。
「こんな小さな蜘蛛さんに怯えて蜜樹ちゃんは本当にかわいいですね」
梅は頬を紅潮させ、蜜樹に顔を近づけた。
「あ、停電」
さっき蜘蛛を潰したから!とゆうりが言うと、きゅっと日向がゆうりの袖を握った。
「あ、戻った」
「いきなり真っ暗なったからびっくりした」
ゆうりは日向の手を振り払った。
「は、なにお前、寝る時豆電球とか点けるタイプ?」
「そうじゃないけど…不意打ちなものにびっくりしがちなんだよね」
「ふーん」
そういえば。
梅はいきなり停電になっても全くと言っていいほど平然としていた。
普通は日向みたいに少しは驚いたりするものだろう。
「お前って怖いものとかねぇの?」
「さぁ?」
そう言い、梅はニヤリと笑い、部屋をあとにした。
「ゆうりくん、気にならない?
この男の、弱点」
「気になる」
「じゃあ探そうよ。
怖い梅くんの弱点。
僕は狙った獲物は逃がさない」
「お前も十分こえーよ」
「じゃあまずは狙撃でもしてみる?」
「いきなりすぎねーか?」
「甘いよゆうりくん、梅くんに常識なんて通じないんだから」
「まぁそうだけど」
「2人とも、あんまり梅さんを怒らせないでね」
蜜樹はそう心配そうに言った。
「蜜樹ちゃん…が弱点はないかぁ…別に蜜樹ちゃんのこと大事ではないもんね」
「なにその言い方」
蜜樹はムッと日向を睨んだ。
「梅くんにとって蜜樹ちゃんはお人形さんだもんね。
ごめんごめん」
「ひどいよ、日向ちゃん」
「そ、た、い、言い過ぎだぞ、日向…」
怒って部屋を出ていく蜜樹を見てゆうりは日向を異常者だと思った。
こいつ、本当になんでかわかってねぇ
「まぁいいや。
それよりゆうりくん、作戦たてよ」
「あ、あぁ…」
「よし、まずはこれなんかどう?」
日向は虫カゴの中に入った数体の体が大きいムカデをゆうりに自慢げに見せた。
「き、きも…っ」
「これを梅くんの頭に乗せてやろうよ」
確かにそれは驚いて悲鳴を上げるかも。
その光景を想像したら、プククと笑えてきた。
「よし、やろうぜ…」
「そうこなくっちゃ」
読書をしている梅の背後にそっと近づき、ムカデ数体ばっと投げた。
ムカデは梅の頭や肩に乗り、梅は悲鳴をあげた。
と思いきや。
梅は一体のムカデを手に取り、観察をし始めた。
「貴方は足が綺麗ですね。
お名前は?」
「は、は?は?」
ゆうりと日向はさすがにこの梅の反応に驚愕した。
普通、いきなりでかいムカデがついたら、驚くだろ。
「ゆうりくん、日向くん」
びくりとゆうりは肩を振るわせた。
「ありがとう、こんな美しい子を紹介してくれて」
そう言い、梅はチュッとムカデにキスをした。
「う、うわぁ…」
「さすがに想定外」
「次の作戦は」
「まだ続けんのか」
「逆に反射神経に訴えるのはどう?
僕が遠くから梅くんの心臓狙う」
「お前頭大丈夫か?」
「冗談はさておき…
漫画とかでよくあるスレスレを狙うやつ!
やってみたくて」
「もう好きにしてくれ」
とか言って結局日向と遠距離から梅を狙ってるし。
「梅くん隙だらけ。
かわいいとこあるじゃん」
「日向、右じゃなく左狙えよ、右に蜜樹いるから」
「わかってるって」
日向はキリキリと弓を引く。
「よし」
弓矢を放ち、梅の悲鳴があがる。
と、今度こそ思っていた。
「物騒ですねぇ」
「きゃぁぁぁぁ!??
手、手…!」
「貫通しちゃった」
「なにやってんだお前ぇぇぇ!」
「外したはずなのに」
梅がわざと撃った瞬間、手を出してきたのだ。
バレてたか。
「痛いのも、怖くないのか梅くんは。
梅くんの手、傷残っちゃうね」
「こ、殺される…!」
ゆうりはさすがに青冷めた。
梅の手を傷つけた。
百合からどんな報復を喰らうか、わかったものではない。
「梅を故意に傷つけたのか」
百合は日向とゆうりを正座させ、日向の足を踏みつけた。
「梅くんが怖がったり、苦手なものを知りたくてやりました」
日向はそう淡々と答えた。
「梅の?」
「はい。
あの人の弱点を知りたくて」
「ふん…」
クククっと百合は低く笑った。
「面白い、梅の苦手なものは…」
ゴホンッと梅は咳払いをした。
「ふふふっ、梅、よかったな、興味を持ってもらえて」
「光栄です」
「もういい、もう少し梅の苦手なものを探るといい。
面白いぞ」
え、許された…!?
なんで、これが許されるんだ…い、異常だ…!
「次どうする、ゆうりくん」
「もういいって!」
「なぜです、なぜやめてしまうのです」
「わ!?」
突然背後に梅が現れ、ゆうりは尻餅をついた。
ふふっと梅は笑い、椅子に座る。
「私の弱点を探してくれるんでしょう?」
やめないでくださいよ…と寂しそうに梅は言った。
「変なやつ…」
「ありがとうございます」
ダメだ、こいつ。
弱点なんかない。
そう思った瞬間。
「!!?」
扉を開けて入ってきた蜜樹を見た梅が悲鳴をあげた。
「な、なんで、蜜樹さん、そんな格好を」
蜜樹はキョンシーと呼ばれる、中国で有名な奇怪なコスプレをしていた。
「え…かわいいかなって」
なんて、あおいちゃんが着てたからおんなじの買っただけなんだけど、と蜜樹は心の中でつぶやいた。
「どう?ゆうりちゃん」
ぴょん、ぴょんとキョンシーの真似をし、ジャンプしながらゆうりに近づく蜜樹を見て、梅はガタっと椅子から落ちる。
「や、や、やめ…!こ、こないで…!」
ゆうりと日向はふふーんと目を合わせた。
「なーんだ、梅くん。
キョンシーがこわいんだ」
「弱点、みーっけ」
「そうなの?梅さん」
蜜樹はまたぴょん、ぴょんと梅に近づく。
「ひ…!や、やだ!
来ないでください…!!」
「プクク…っ」
「怖いんです怖いんです!
死体が動くなんて!
美しくないんです、死体が動くなんて…ひ!ほ、ほんとにやめ…!」
「生き血を求めてる点は一緒じゃん」
その言葉を聞き、梅は涙目でゆうりと日向を睨んだ。
「ははっ、お前も人間らしいとこあんじゃん」
次の日。
「おはようございま…ひ!?」
全員キョンシーのコスプレをしており、梅はあまりの恐怖に腰が抜けた。
「メイ」
「百合さま…百合さままでキョンシーの格好を…!!
みんなひどいですよ…!」
ゆうりや日向は席を立ち、ぴょん、ぴょんと梅に近づく。
その日一日、梅は悲鳴をあげ続け、仕舞いには悪夢でうなされていたそうな。




