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第三十七話 仮面の男


『tnbまじで公演中に彼女の匂わせするとか舐めてる?』




『tnb、女の子好きだもんね

彼女さんとか何人いるのかしら?』



『tnbのブロマイド燃やした』




あおいはSNSを見て驚愕した。



大炎上じゃん…



公演中に彼女がする匂わせを許す、ましてや本人が匂わせするだなんて、なにを考えているのだろうか。



『tnb、キャラクターの顔に泥を塗ってて作者も脚本家もみんなかわいそう』




このコメントは正論だと思った。




「本当、すみませんでした!」



田邊が頭を下げ、全員静まり返る。



あおいは、

「あおいさんがつむぎでよかった」という言葉を思い出した。



もしかしたら、田邊がレオナルド役でよかったと思うファンもいたかもしれないのにな、と思った。



「わざわざオーディションして、せっかく選ばれたのに、責任感はないのか」



脚本家がそう怒鳴る。



オレはオファーだった。

だけど、レオナルドはオーディションだったのか。



つまり、この作品に、この舞台に立ちたかったやつは、他にもたくさんいたということだ。




でも田邊は別に、犯罪を犯したわけでもない。

頭を下げ続ける田邊をこれ以上責めるものはいなかった。



結局、その日はいつも通り公演をし、次の日には席は8割、また次の日は半数も客が減っていた。



モヤモヤしたまま迎えた千秋楽、忘れられない舞台にしてやるって、こんな形で結果が見えるなんて、皮肉だな。




———



「田邊とかいう俳優、なんなの?

あたしの推しの足を引っ張るなよ」



蜜樹はカフェで注文したフラペチーノを飲みながら、ボソッと呟いた。



「せっかくあおいちゃんにとって飛躍の活動になったはずなのに、演者側がその邪魔をするだなんてどういうこと?

許せないんですけど」




「落ち着け、金鞠」




仮面の男は、あまりにもいつもの蜜樹と違うため困惑しながら宥めた。




「千秋楽まで誰にも手を出すなと脅されたときはびっくりしたぞ」



「だ、だって…人が減ったら、あおいちゃんの人気に影響が…」



というかカフェでまで仮面つけてるの?


と思わず聞きそうになったが、さすがに自重した。



「あおい、というアイドルはそんなにすごいのか」



「うん!まずめっちゃかわいいしダンスも上手だし写真はいっっつも画角も神だしSNSでやらかすこともないしヘアメもメンバーのしてあげてたり超優しいしでも時々ドジなのもよくてあとこの見た目で趣味が釣りってのもよくて」



「わかった」



「いやまだまだ語り足りない、こんなもんじゃないのあおいちゃんは」



「わかった、わかったから。

己の目で確かめよう。

それでは」





そう言い、仮面の男は席を立ちカフェをあとにした。



———




こうしてむかえた千秋楽。

席はまばらだが、それでも観客がいることには変わりない。

それに、千秋楽には、あのファンレターをくれた子もいるはずだ。



この作品が好きな子に、観てよかったと思ってもらいたい。




そう思い、あおいは深呼吸をし、舞台に臨んだ。



———



「なんだよ、あれ」



舞台は無事、終了した。



一応。



田邊はまるで上の空だった。

あんなのはレオナルドじゃない、炎上して、やる気がなくなった田邊自身だった。




「ふざけんなよ…」



あおいは苛立つ思いをなんとか隠しながら、他の演者と打ち上げ会場となっているレストランに向かった。



「あおいちゃん隣いい?」



いいわけないだろっ!



もしかしたら、オレは陽翔たちと過ごしてるうちに、謎の正義感が生まれてしまったのかもしれない。



「あのさ、あおいちゃん」



「一緒に帰らない?」



ぐ…!

こいつ…!!




そんなとき、ポンと通知が鳴った。



陽翔『あおい、元気?』



というメッセージだった。



陽翔…


た、助けてくれ〜!!

オレはこいつを殴りそうだ!!!




『助けて陽翔、オレ犯罪者になっちゃう』



『どゆこと』



『燃えカスが再炎上希望してます…』



『よくわかんないけど、そっち行く』




陽翔〜!

神神神〜!!!

打ち上げぬけたったし、最高〜!!



「あ、あの…友達が迎えにきてくれるみたいで…私、先に帰ります!

お疲れ様でした!」



「駅まで送るよ」



来るな〜!!

2人になったらまじで殴っちゃうだろ!






「あおいちゃんて彼氏いるの?」




断れなかった…




「…ねぇ、どうして今それ聞くの?」



「え?だってあおいちゃんかわいいから」



「…やめてよ!

千秋楽のあの演技なんなの!?

どうして、来てくれた人に誠実に向き合えないの!?


炎上しても観に来てくれてる人たちを裏切る人と、付き合えるわけないよ!」




こんなこと言うキャラじゃなかったのに。

言わずにはいられなかった。




「だ、誰?」



田邊は警戒しているようで、後退りをした。


そらそうなるわな。



「は!こんな不審者と陽翔を会わせるわけには…」



こんな不審者に高校生を会わせるわけにはいかない。




「どうした、変身をしないのか。

貴殿はヒーローなのだろう」



「は?ヒーロー?」



空気読めよバラすなよ正体を。




てかこいつ、敵かよ。


見るからに強そうだし、なんか剣持ってるし。



これ以上田邊に深ぼられても迷惑だ。



「仮面のお兄さん。



私と鬼ごっこで勝負しよ?」




「ふん、いいだろう。

脚には少々自信がある」




乗ってくれるんだ、乗ってくれないかと思ったわ。



「よし、じゃあ捕まえてみせてね?」



オレは今、ヒーローじゃない。



だけど、陽翔1人に背負わせたくない。



ならせめて、こいつを撒いて逃げる。


そう思い、あおいは駅とは反対方面に走り始めた。

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