第三十五話 待つよ
稽古場にて。
『あなたみたいな人がレオナルドの隣いるのは不愉快ですね』
『えーいいじゃん、おれこの子嫌いじゃないぜ!
もっとジャッポーネのこと教えてくれよ!』
クールな側近男子に弟系の元気系男子。
いかにも乙女ゲームの登場人物というキャラクターだ。
順調に稽古は進んでいた。
稽古は。
「い、忙しい…!」
ヒーローにアイドルに舞台の稽古に、歌や踊りのレッスン。
行き着く間もない。
『私…レオナルドさんのこと…!』
『つむぎ…』
こんな忙しくて寝る間もない中、容姿端麗な俳優に告白し、キスシーンまである。
悪夢なのか?これ
————
「最近蜜樹ちゃん、頑張ってますねぇ」
梅は蜜樹の髪の毛を三つ編みにしながら、よしよしと頭を撫でた。
「あぁ…はい…」
「2.5次元、ですか…?
イケメンがたくさん出てるっていう」
「な、なんでそれっ」
「あ、画面見たので」
嘘でしょ、と蜜樹は眉を顰めた。
「舞台か」
仮面をつけた男が興味深そうに、2.5次元という単語を検索する。
「若い女性に人気なんだな」
「…では蜜樹さん」
——嫌な予感がする
「観客の子から、美しく若い子を連れてきてください」
やっぱり。
「…私がやろう」
「えっ」
仮面の男が組んでいた足を解き、席を立つ。
「おやまたどうして」
「…」
「貴方なら成果など気にしませんよ。
私の「お気に入り」なので」
「失礼する」
——多分、助けてくれたのだ。
蜜樹はそう感じた。
だけど、あおいちゃんの出演する舞台で行方不明者なんて出たら…あおいちゃんの仕事が今後減っちゃうかも…
はぁ、とため息を吐くと、梅は「舞台、楽しんでくださいね」、と耳元で囁き、部屋をあとにした。
「あおい!?」
「なに言ってるんだ!」
「オレ、全部同時にできると思ってたけど、無理だった」
現場に、全てが終わったところに来るヒーローっていらないだろ。
そうあおいが言うと、陽翔は
「わかった」
と、言った。
「預かっておくね」
と、陽翔はポケットに閉まった。
「……ごめんな、みんな」
あおいは、そう言い残し、タクシーを拾い稽古場へと戻った。
「ちょっと、陽翔!預かるって…
あおいもなんなの…いきなりあんな事言うだなんて…」
「あおいは」
「誰よりもヒーローなんだよ。
だから、責任感じてるんだよ。
あおいが安心して任せられるヒーローに、俺がなるから」
だから待つ。
陽翔は赤と青のデバイスをポンと優しく叩き、ラナと涼太に「俺たちも帰ろう」、そう言った。




