第三十三話 白
静かな部屋に食器のカチャカチャという音が響く。
百合と梅は向かい合わせに座っており、梅は苦笑いを浮かべ、水を流し込んだ。
「死体を食べられる、百合様を尊敬します。
死体を食べるなんて、おぞましい…
生きて食べるのが1番新鮮で美味だというのに…」
「やかましい、食事の邪魔だわ。
さっさとお風呂の準備をなさい」
やれやれ、と梅は、切った桃を百合の手前に置き、隣に座る。
「…その男」
「?陽翔くん?」
百合は梅のスマホを覗き、画面に映っている陽翔をフォークでクイっと指をさす。
「そんなに美しいか。
お前の方が何倍も美しいが」
「またまたご冗談を。
…陽翔くんは、行動が極めて美しいのです。
無神経な言動も目立ちますが、心が美しいんです。
あぁぁ、思い出したら、会いたくなってしまいました」
百合は梅の頬を力いっぱい殴り、男に興奮することなど、私は許さないと、梅の足を踏みつけた。
「あぁ、痛い…っ」
「陽翔、陽翔ね…」
興奮している梅を足蹴にし、百合は陽翔の画像をアップにする。
「心が、美しい…?
男にかぎってそんなわけない」
百合は桃を一口かじり、陽翔の画像に唾をかける。
でも梅がそんなに言うなら。
どんな男か気になる。
基本的に、梅以外の男は受け付けない。
だけど、どんな者か見てやろうじゃないか。
竜胆陽翔。
———
「やっぱり冬はアイスに限るよね」
陽翔はコンビニでミルク味のアイスを買いに来ていた。
(はなにじゃんけんで負けた)
「さむ。はやく帰ろ」
ぐいっと陽翔のコートが引っ張られる。
「?」
そこには真っ白な、まるで雪の妖精のような少女が、陽翔のコートの端を掴んでいた。
「?迷子?」
少女はじっと陽翔の持つアイスを見つめる。
「ほしいの?
あげるよ」
たくさん買ったし、と、陽翔はミルク味のアイスを少女に差し出した。
「………白い」
「そうだね。君と一緒だ」
「…これは?なんていう」
「え?アイスだけど」
「アイス……?
白い…」
なんだこの子供は。
まさか、アイスを食べたことがないのだろうか。
コンビニのイートインスペースに座らせ、こうやって食べるんだよ、と教える。
「…!うまい」
「よかった」
「白い……気に入った」
「白好きなの。
俺も白好きだよ」
「!」
「白が好きなのか」
「うん、色の中なら。
1番好きかな、落ち着くし」
「そうか、落ち着くか。
同じね」
「そうなんだ。
君は真っ白だし、白似合うね」
「そうか。
そうだな。ふふ…」
「陽翔」
「うん。
あれ」
俺、名前、この子に教えたっけ?
そう考えていると、口にキスをされた。
百合は静かに陽翔から離れ、コンビニの出口へと向かう。
「また会おう、陽翔」
「え?あ、うん」
子供にキスをされてしまった…
陽翔はアイスが溶けかけていることに気がつき、急いで家へと向かった。
「貴方が男にキスをするだなんて、妬けちゃいますね」
梅の一言に、百合は目を伏せ、梅の腕を引っ張り、口にキスをした。
「初めて、桃と肉以外のものを差し出された。
美味だった」
「よかったですね」
「私に初めてのもの、それも私が愛してやまない白いものを。
陽翔、好きだ。
気に入ったわ」
あんな普通な少年、なんで気になるかはわからないが、恐らく、陽翔の魅力は語れないなにか、わかってしまってはつまらないなにかを持っているのだと、百合は感じた。
「お前がいつも、観劇だなんだと馬鹿げたことを言っている、意味が少しわかったような気がするわ」
「それはそれはよかった」
次の展開が楽しみだ、そう百合と梅はニヤっと笑った。




