第二十三話 不法侵入
陽翔はアザミに指南を受けるため、警察署に訪れていた。
「…?」
受付にいる女性、どこかで見たことがあるな、どこだっけ。
あ、アイドルとか女優だった気がする。
女性が鞄からデバイスが出てきた瞬間、陽翔の心臓がドクンと鳴った。
どうしてあのデバイスを…?
ゆうりが持っていたはず…
—————…
「俺を美容外科に連れて行ってください」
「え〜、私これからレッスン行きたいのに」
「お願いします、牛乳あげますから」
「いやいらないよ?」
女性…あおいは陽翔の手を少し強く振り払う。
「しつこい男は嫌われるよ!」
「……」
しゅん…とする陽翔にあおいは、ううっ、と唸る。
「…困ってるみたいだね。
はぁ、わかったよ」
「ありがとうございます」
———
2人は美容外科の看板の下でビルを見上げた。
「じゃ、私はこれで…
ってなにやってんの!?」
あおいは陽翔の行動にぎょっとした。
なぜなら正面ではなく、裏口のドアに向かって行ったからだ。
「不法侵入」
「いやそんな真面目に言われても…」
「だってもうスタンガンでビリビリされたくないから」
「お前なに言ってんの?」
あおいは陽翔の行動や言動についていけず、思わず素が出てしまい、口を抑える。
「ちょ、ちょっと、本当に入るの?」
「危ないから帰りなよ」
陽翔はバタンと裏口を閉めて、本当に不法侵入してしまった。
「………!
もー!高校生を犯罪者にするわけにいかないだろうがー!」
これで週刊誌に掲載されたら、陽翔の人生呪うからな!と、周囲を気にしながらあおいも裏口から侵入した。
———
「…つっ………!」
蜜樹は震える手でアイラインを引く。
いつもならスッとできるものが、ものすごく時間がかかる。
なんとかフルメイクを終わらせ、包帯で巻かれた両手を見つめる。
「…これで済んだなら、安いものだよね…」
大丈夫、どこかを切断されたわけじゃない。
また、すぐ元通りになる。
『蜜樹の手は綺麗だなぁ』
『蜜樹はママに似て爪が綺麗ね』
父と母に褒められた事を思い出し、蜜樹は涙を流す。
「ダメ…今化粧終わったばっかりなのに…」
あたしに泣く資格なんか、ない。
『変な正義感を持った、あなたが悪いんですよ』
先程、白衣の男に言われた事を反芻し、吐き気がした。
蜜樹は溢れる涙と嗚咽を、止める事ができなかった。
———
「もーどこ行ったんだよ、はるととやらは」
行動はやすぎだろ、これが10代と20代の壁か?
いやオレだって、プロフィール上は10代だし…
そんなことを考えながら歩いていると、少し開いている扉から鼻歌が聞こえた。
隙間からそっと覗くと、白衣を着た男性が、ネイルチップをディスプレイプレートに並べ、壁に飾っていた。
「…?」
あのネイルデザイン、どこかで…
さっきのお姉さんとデザインが同じ…?
「…!」
あおいは息を飲んだ。
あれは、ネイルチップじゃない。
だって、血がついている。
まさか、まさかあれは…
「う…っ!」
あおいは口元を抑えながら、その場を離れた。
白衣の男は、扉の方をゆっくりと振り向き、ニヤリと笑みを浮かべた。
—————
陽翔は、変身してゆうりを探した。
「こんな禍々しい美容外科あるんだ」
他は知らないけど。
そうだ、さっきのアイドルのあかねちゃんだかみどりちゃんだったかはどうしたかな、帰ったかな。
と、考えていたら廊下の隅でうずくまっているのを見つけた。
「大丈夫?」
「うぉえっ、おえぇぇぇ!!」
「………本当に大丈夫?」
「おぇぇぇ…っ!なんなんだよ、ここ、あの男…!」
「帰りなよ」
「帰る!もう帰る!こわいよぉ!なんなんだよまじで!」
すくっとあおいは立ち上がり、息を整える。
陽翔の姿にようやく気がついたのか、まじまじと眺めた。
「…?なんか見たことあるな」
「そう?」
「どっかで会った?うーん…」
あおいは陽翔の変身した姿をどっかで見たと言い、うんうんと唸る。
しかし思い出せないのか、すぐにまぁいいや、という表情を浮かべた。
「そうだ、涼太とラナにここを伝えなきゃ」
陽翔はデバイスを用いて2人に連絡を取ると、すぐに向かうと返信があった。
「…?」
「はやく帰りなって。
女の子がここにいたら危ないんだって」
「女の子が…危ない?」
「そう」
「なら、さっきのお姉さんは…
それに、泣き声が聞こえないか?」
「……?
あ、確かに」
あおいの言う通り、かすかに遠くから泣き声が聞こえた。
「…さっき知らないお姉さんに助けられてさ。
逃げるなら、その子も連れて行きたい」
「!他に女の子がいるの。
それなら助けないと」
陽翔はあおいの手を取った。
「でもやっぱり君は帰りなよ。
俺が絶対その子を助けるから。
走って、裏口まで」
「え、でも」
あおいが反発しようと口を開くと、陽翔は手で口を塞ぎ、シーっとした。
コツコツと足音が聞こえ、近づいて来る。
「いいからはやく、走って!」
陽翔はあおいをドンっと押し、足音がする方へと向かった。




