第二十話 実は…
「本当にいいんだね」
「…はい」
ゆうりは白衣の男にデバイスを手渡す。
「手が震えてるよ」
「気のせいです」
ゆうりはそう言い残し、部屋を出て、水槽のカニを眺めた。
ぷくぷくとなにか言いたげなカニに、ゆうりは「なんだよ」と問いかける。
カニは最初からこの水槽にいたんだろうか。
それとも、広い海から連れてこられたのか、はたまたどこかで買ってきたのか。
どちらにせよ、カニたちはもうどこにも行けないし、この水槽の中で暮らしていくしかないのだ。
「…お前らも大変だな」
ゆうりはそう呟いて、天井を見上げた。
「金鞠、少年たちのことはどうなっている」
「は、はい。
今は、様子を見てます…」
「そうか。
…それにしても今日もかわいい。
かわいい私の蜜樹」
蜜樹はざらりとした百合の視線にビクリと肩を振るわせ、喉を鳴らせた。
笑わなきゃ、この人を、喜ばせるために。
あたしはまだお気に入り、大丈夫。
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「疲れた」
蜜樹はため息をつき、スマホであおいのSNSをチェックする。
そうすると緊張の糸がほぐれ、高揚感に包まれてゆく。
「今日も尊い尊い尊いです…っ」
「はぁ…あおいちゃんほどかわいい女の子いないし…まだ17歳なのに、こんな完成されてる子いないよ…こんな衣装、あたしが着たらただの機動戦士だよ……貢がせていただく(敬具)」
「こんな女の子になりたいなぁ…」
—————
都内某所。
アイドルグループ、Peridotの握手会が今しがた終了したところだった。
グループメンバーは適当な挨拶を交わし、個々に解散してゆく。
「お疲れ様でーす」
Peridotのメンバーのあおいは、そそくさと会場をあとにし、電車を乗り継ぎ帰路に着く。
自宅に到着し、チョーカーを丁寧に外し、シャワーを浴びる。
冷蔵庫から缶ジュースを取り出して、一気飲みをした瞬間、ドッと本音が溢れ出た。
「あ〜〜〜酒呑てぇ〜〜〜」
「あ〜かわいい女の子抱きてぇ〜」
あおいは17歳でも女の子でもない。
21歳成人男性だ。
「バレたらおしまいだから、お酒も飲んでないし、女の子とも付き合えないし………
かわいい女の子といちゃいちゃしたいよーえーん」
「こんな缶ジュースで満足できて偉いオレ!
今日も頑張った………」
あおいは缶をゴミ箱に捨て、リンパマッサージをし横になる。
「おやすみ、オレ」
あおいは自分を労り、夢の世界へと落ちていった。
—————
「ゆうりくん」
「…はい」
白衣の男に手招きされ、近づくと耳元で「仕事をあたえます」と、囁かれた。
「内容は…」
「…!」
「大丈夫かな?」
「………はい」
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「美容外科の広告塔?
……オレ、整形してないけど」
「でもいい案件だし
美容医療受け放題でいいってさ。
ここ最近若い子に人気だし、仕事は選ばないで、とりあえず引き受けようよ」
あおいのマネージャーは、あおいが男だと知る数少ない内の1人だ。
仕事を選ぶ段階にまだないだろ、と厳しい意見をあおいにぶつける。
「そりゃそーだけど…
その代わり、整形の案件は受けないよ」
「多分大丈夫、そう伝える」
「とりあえず院で撮影できるかって。
俺はこの日、別のメンバーのドラマ案件に付き添いしなきゃだから、1人でいける?」
「りょ。それくらい大丈夫よ」
「ありがとう、じゃあ失礼のないように」
いいなぁ、ドラマ。
俺もそっちがよかった。
水着のシーンがあったから、ダメだったんだけどさ。
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月に2回、蜜樹は肌管理のため、白衣の男の美容外科に通っている。
無料でできるという謎の福利厚生は使わねば損だ。
スマホをいじりながら入ろうと、ドアに手をかけると同じタイミングで手が触れ合った。
「あ、すみませ…え?」
「すみません、急いでて」
蜜樹の頭の中に
Now loading…と文字が表示される。
な、な、なんであおいちゃんがここにいるのー!!???
お先にどうぞとばかりにドアを開けてくれているあおいに、小さな声で、ありがとうございますと言い、サッと入り、椅子に腰掛ける。
「あおいさん」
聞き慣れた声に、蜜樹は顔をあげる。
ゆうりだ。
「どうぞ、こちらへ…」
ゆうりは、そう言い、あおいを奥の部屋に案内した。
ま、まさか………あおいちゃんが次の標的って…コト…!?
ど、どうするのあたし…———!




