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第二話 仲間探し

2話


「親父……!」


「陽翔……!

似合ってるぞぉ!!

まるでお姫様を助けて帰ってきた王子様みたいじゃないかぁ!!」


力強くハグをされ、陽翔は思わずうめき声をあげた。

慌てて勝を引き剥がし、声を荒げる。


「……この格好は、なんなんだよ。

あのスマホも、はなを誘拐したあの男も……」


一度、言葉を切る。


「親父は知ってるんだろ。

教えろよ」


勝は表情を引き締め、ちらりとはなの方を見やった。


「……父さんの部屋で話そう」


「……わかった」


扉を閉めてから、勝はゆっくりと息を吐いた。


「陽翔。

お前はな、普通の高校生じゃなくなった」


「……は?」


「……fastだ」


勝は一度、視線を逸らした。


「そのデバイスは、

触れた人間の“心”に応える。

……俺が何度やっても、ダメだったのにな」


ファスト?

心に、応えた?


「……なんなんだよ、特殊組織って」


「……お前も聞いたことがあるだろう」


少女連続誘拐失踪事件。

……たしかに、最近やけにニュースで見かける。


それを―

さっきの、あの気持ちの悪い長髪の男が

やっているということなのだろうか。



そう考えた途端、背筋が凍った。

はなを、失っていたかもしれない。


「……このデバイスに、入ってたんだ。

はなの居場所が……」


「それはな」

勝は少しだけ視線を逸らす。


「父さんが、お前らが寝てる隙に

勝手にスマホと連動させといた」


「おい……」


言葉が、続かなかった。

喉の奥が、ひりつく。


「……でも、はなを助けられてよかった。

本当に……」



「デバイスを操作するといい。

元に戻れる」


勝の指示に従い、操作すると、

陽翔の姿は制服へと戻った。


「……陽翔」

勝は一度、言葉を探す。


「お前はな。

もう、戻れない」


「……やめる気はない」


陽翔は拳を握りしめた。

はなを傷つけようとした奴。

そして――

同じように、誰かの大切な存在を奪った奴ら。


放っておけるわけがなかった。


「簡単にはやめられないぞ。

それでも、やるのか」


「ああ。

……わかってる」


「……なら、最初の任務だ。

デバイスは、あと三つある」


「……仲間?」


「ああ。

ヒーローなら、仲間が必要だ。

適合する人間を、見つけろ」


「やる。

必ず仲間を見つけて……

あんなこと、やめさせる」


そう言って、陽翔は部屋を出た。


「……まさか、陽翔が……」


勝は、顔を覆った。



「——と、いうわけで」


陽翔は、飲んでいた牛乳を一気に飲み干した。


「一緒に、ヒーローやらない?」


「ひ、ヒーロー!?」


「陽翔、お前……十七にもなって、なに言ってるんだ?」


屋上にて。

涼太は目をまん丸にし、

ゆうりは、心底うんざりしたようにため息をついた。



広間に数人の人影。

豪華すぎて、広すぎるくらいだ。



「よくも食事の邪魔をしてくれたな」



小柄な女が、ゆうに190はあるであろう男のみぞおちをゴルフクラブで思い切り殴った。



「あぁぁぁ…大変申し訳ありません、どうしても続きが気になってしまったんです、美しかったばかりに…」



男は吐血しながらも、恍惚とした顔を浮かべる。




「あーあ、そんな興奮しなさんなって。

百合様、この水沼仙が行きましょう。

そんな令和キッズ、1番に片付けちゃいますよぉ」



「…期待せずに待つ」



「ガクッ!

仙さんかなし〜…いってきまぁす」



———



「よかったよかった。

涼太がやってくれて」



知らない人は嫌だからな、と我が家の愛犬、ミルクを撫でる。(ポメラニアン)





———


「はると! 待ったか!?」


「いや、別に。

ミルクは家に置いてきたし」


部活終わりの涼太は、汗を拭いながら笑う。

いつも通りの光景だ。


二人並んで歩きながら、陽翔は話した。

はなが誘拐されかけたこと。

父親から渡されたデバイスのこと。

そして——ラナという、まだ会ったことのない存在のこと。


涼太は黙って聞いていた。


「……はると」


少し間を置いて、涼太が口を開く。


「昼間はさ、簡単にやるって言っちゃったけど……

お前は、大丈夫なのか?」


「うん」


即答だった。


「はなをあんな目に合わせて、

これからも被害が出るなんて、許せないし」


涼太は小さく息を吐いた。


「そっか……

俺、務まるかな」


その声には、不安が滲んでいた。


陽翔は一瞬だけ考えてから、肩をすくめる。


「大丈夫だろ。

涼太なら」


理由は言わなかった。

でもそれで十分だった。


涼太は照れたように鼻を鳴らし、少しだけ前を歩き出す。


夕暮れの校舎を背に、

二人の影は、まだ同じ速さで伸びていた。




「あらま〜、青春してるねえ。

さぁて……あの赤毛のボクは、どう引き寄せてあげようか」



「あ、あの…」



「はい?」



放課後、コンビニで牛乳を買おうとする陽翔に、いわゆる地雷系の少女がおずおずと声をかけてきた。



「地雷系女子だ」



少女はスマホをすっと見せるとそこには


「脅されています。助けてください」



と書かれていた。




少女は、今にも泣き出しそうな顔で陽翔を見つめた。


「……脅されてるって」


「私……前に、すごい綺麗なお屋敷に連れて行かれて……」


「!」


はなを連れて行かれた場所と、

同じところじゃないか。


陽翔は、思わず少女の肩を掴んだ。


「……その話、詳しく」



「私……私……いやぁぁぁぁ!!」


「お、落ち着いて!」


「こ、このままじゃ……私、私……!

このあと、脅されてる人と……会う約束してて……それで……!」


「……!」


「こ、こわいの……助けて……お願い……」


陽翔は、一瞬だけ息を吸った。


「……わかった。

俺を、そこに連れてって」




そう言って、少女に連れられてきたのは、

繁華街の一角にある、中箱くらいのバーだった。


看板は出ているのに、店内の様子は外からは見えない。



少女が重そうな扉を開けると、

派手なスーツを着た金髪の男が立っていた。


男は、陽翔を見るなり、ニヤリと笑った。



「誰なんだ、おじさん」


「おじさんはね、

このへんじゃちょっと有名な

ホストクラブを経営してんの」


「ホスト……? さっきの女の子は」


「あの子?

かわいそーなんだよ。

よくわからない連中に、脅されててさ」


「え」


「めーっちゃ綺麗な屋敷に連れてかれて、

いきなり変なお皿に乗せられて、

きもちわりー外科医に脅されてんだってさ!」


「……!?」


「も〜、かわいそうでかわいそうで!

だからさ、おじさん、

今“被害者の会”つくってんのよ」


「……なるほど」




「おじさんさ、ツテがあるからね。

ごめんね、ちょっと調べさせてもらったんだよ〜」


「………」


「若い女の子が犠牲になるなんて、許せないじゃない?

おじさん、なるべく多くの子を助けたくってさ」


「……そうか。

じゃあ、おじさんも一緒だな。

牛乳、飲む?」


「あー、いいよいいよ。

優しいねぇ、陽翔くんは!


でもさ、このバー持ち込みNGなんだ。

ここにあるの、飲んでね」



陽翔は、仙が注いだグラスに口をつけた。


次の瞬間、視界がぐるりと揺れる。

床が近づいた気がして、慌てて瞬きをした。


なんだか、ふわふわする。

頭の奥が、じんわり熱い。


「な、なんらぁ……これ?」


「あらら。

それだけで、そんな効いちゃったの」


「んーん……効いたって……?」


「こっちの話さ」



「弱くてかわいいねぇ、おじさんもそんな時あったなぁ。


ほらほらもっともっと!

グーっとグッと参りましょー!」




そう煽られ、陽翔は無理やり飲まされた。

視界が、じわりと滲む。


「りょ……りょうた……」


震える手でデバイスを取り出し、涼太に通話をかける。

——繋がらない。


部活だろうか。

そんな考えが浮かんだのも一瞬で、すぐに消えた。


頭が回らない。

胸の奥が、やけにうるさい。

心拍数だけが、どんどん上がっていく。



「あらら、こんなか弱い坊ちゃんを変身させて戦わせるなんて、お父様はなぁにを考えてるんですかねぇ」



「な、なんれ、それ」



「調べたっつったやん。


ちゃんと名乗らずにごめんねー!



水沼仙様だよ、陽翔くんも沼ってみるー?」



「今日もおじさん、かっこいいと思わない?

陽翔くんもこんなかっこいい大人になりたいよねぇ」



「やだ」



「あー照れなくていいんだよ。

おじさんの色気にも酔っちまうよ、未成年がこんな刺激耐えられないっしょ」



「お父さんばっかだねぇ、自分でやりゃいいのによー。

息子に責任負わすだめ親じゃん」



「…ちがう、おやじは、そんなじゃない!」



「そんなじゃない、じゃないのぉ!

ただの弱虫、息子に大変な仕事負わせる、今流行りの毒親だって!」



「それ以上、おやじのわるぐちいうな!」



そう言い、陽翔はデバイスを取り出して変身をする。

しかし、先程よりも体温が上昇し、目の前がぐるぐると回ってるような気がした。



「あれ、はれ、なんれぇ?」



「ギャー!アハハハハ!!

ラリってるラリってる!


おじさん面白いこと思いついた!



『未成年現役男子高校生、飲酒してみた』配信〜!!」



そう言い、仙はスマホを陽翔に向ける。



「!?と、撮るな!」




「も〜カメラ回ってるよ〜」




陽翔はふらりと机にもたれかかり、

滲む視界の向こうで、仙を睨んだ。


——続く。


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