第十七話 無慈悲
陽翔は、平和だと感じていた。
でも今この瞬間も、誰かが犠牲になっていると思うと、いてもたってもいられなかった。
放課後、自宅に到着しソファに腰掛けると親父から電話が入った。
『陽翔。お前に頼みたい仕事がある』
「!なに?」
『滋賀県大津市に、いなくなったと思われていた女性がいることがわかった。
この女性に接触し、保護することが役目だ』
「…わかった」
『ラナがサポートする。
2人で頑張ってほしい』
そう言い、勝は通話を切った。
陽翔は冷蔵庫から牛乳を取り出して、一気にぐいっと飲み干した。
「…よし」
後日、滋賀県大津市に到着した。
今回は県外ということで、アザミが監修、涼太は温泉で日々の疲れを癒すためについてきた。
主軸はラナと陽翔だ。
————-
「私、あなたのために頑張ります。
だから、私のこと、好きになって?」
「わがままな子ですねぇ」
普段は白衣の中にチャイナを着ている男だったが、今日ばかりは白い着物を少し着崩している。
そんな男の太ももに、女の子は縋った。
「お願い、好きなの」
「ありがとうございます」
「いじわる」
「ありがとうございます」
男は顔色ひとつ変えず、そう答えた。
————
宿に荷物を置き、街へとラナと陽翔は繰り出された。
「いい?雄琴のこのお店に、被害者女の子がいるの。
この子を救出できれば、なにか情報を選ばれるはずよ」
「あい。でもどうやって」
「そうね………陽翔は173センチでまぁまぁ高いし…仕事終わりの尾行を一緒にしましょう。
どの女の子かは、私が潜入して探すから、わかり次第いうわ」
「…あい」
「じゃあまたあとで」
—————
ラナは待機所にいる女性をぐるりと見渡し、写真にいた女性を見つけた。
綺麗めな女性でありながら、どこか虚げな表情を浮かべていた。
「あの…私、まだここ入ってわからなくて。
よかったら教えてくれますか」
「……はい」
彼女はスマホから気だるげそうに頭を上げ、すぐまたスマホに目を向けた。
彼女が見ていた写真…
白衣の男だった。
「ねぇ、その人…」
「え、知ってるの」
ギッときつい目でラナを睨む。
その女はラナの手を力強く引っ張り、店に早退しますと告げ、路地裏に連れ込む。
「なにするの」
「あんたこの人のなんなの」
「……私は警察です。
この男を追っている者です。」
ラナは特殊部隊である身分証を提示すると、黙ってしまった。
「あの人を逮捕するの?」
「ええ」
「お願いやめて、私からこの人を奪わないで!」
店前で待機していた陽翔はなんだかおかしいと思い、声をかけた
「ラナ、どうした」
「陽翔…
この人が以前から行方不明だった、高橋れいなさんよ」
「無事でなにより」
「さ、あなたのこと教えて?ひどいこと、なにかされた?」
ラナは子供をあやすように、高橋れいなの背中をなでる。
するとれいなも落ち着いたのか、鼻をスンッと鳴らした。
「私たちはあなたを守りたいの」
「…私は」
—————
上京したばかりのとき、バイトにおわれ、当時付き合ってた彼氏に浮気されて。
そんなとき、あの白衣の方が私のことを、美しいって。
お姫様のように扱ってくれたの。
彼は毎日綺麗だ、美しいって言ってくれたの。
そんな彼が、なにか悩んでいて。
新しい病院を開院するのに、資金が足りないんだって。
だから私決めたの。
彼のために頑張って、彼のほんとのお姫様になりたいって。
だからこうして転々として、仕事してるの。
彼はなんにも悪くない。
私が好きでやってるの。
—————-
「………」
陽翔はある疑問が浮かんだ。
食べない、場合もあるのかと。
一体それはどんな基準なんだろうか。
「ねぇ、君は」
陽翔がれいなに声をかけようとすると、
ドスっ
と、れいなの額にメスが深く刺さっていた。
「ペラペラとおしゃべりするのは美しくないですよ」
カランカランと下駄の音を響かせ、メスをさらにれいなの顔に投げる、男。
「やめなさい!」
ラナが身をかがめ、男の腹を殴ろうとしたが、男は交わし、首元に手刀を落とす。
「か…っ!」
「ラナ!」
「陽翔くん。ラナちゃん。
ここで会ったのも、なにかのご縁。
一緒に温泉でも入りませんか」
「お前…、こんなに慕っていた女の子になんでこんなこと!」
「その子は私を慕ってません。
王子様である私に囚われていただけですよ」
「私は、美しくないものは嫌い。
それだけです。
では温泉を楽しんできます」
「待て!」
追いかけようとする陽翔の足に、無数のメスが顔に刺さったれいながしがみつき、陽翔の追跡を阻止した。
「だ…め………私……だけ…の」
そう言って、れいなは事切れた。
「……なんなんだよ、この組織。
なにが、目的なんだよ…」
陽翔は拳握りしめ、頭を抱えた。




