第十六話 なんかかわいそう
——繁華街、映画館の横道。
そこには居場所がない若者がよく屯している。
「病んだ。もう無理。
担当に見てもらえないなら、いる意味ないじゃん…しにた」
「どうしたの?大丈夫?」
青いインナーカラーが入ったプラチナブロンドが揺れる。
「話、聞くよ?」
蜜樹は優しく笑みを浮かべる。
「私は、あなたの味方だよ」
——
「や、ったあー!!」
退院し、卵を壊さなくなって早数日。
涼太はようやく手にした感覚に、ガッツポーズをした。
一方、陽翔はというと、いまだに正座させられたままだった。
「今日は解散。また明日来い」
急に立ち上がったため、陽翔は足が攣り、涙目になる。
涼太と警察署の出入り口に向かうと、中年の女性が、受付の警官に泣き縋っていた。
「娘はまだ見つからないんですか!?
家出するような子じゃないんです!」
「お、落ち着いてください」
「お願い、帰ってきて…、どこにいるの」
そう叫んだ女性は床に座り込み、大声をあげて泣き始めた。
陽翔と涼太は、ただ黙って見つめることしか、できなかった。
———
「ただいま」
「…っ、おかえり」
蜜樹がゆうりを後ろからぎゅっと抱きしめる。
あまりの距離感に思わず顔が赤くなるが、真面目な性格故、挨拶は普通に返してしまう。
そっと蜜樹がゆうりの耳元で囁く。
「勉強中?えらいね」
「あーもうっ、近いんだよ!」
ゆうりは堪らず、蜜樹を押し退けた。
そんなゆうりをよしよしと蜜樹は撫で、その行為がまた文字通り、ゆうりの神経を逆撫でした。
「なんなんだよっ、いつもいつも!」
「かわいい」
この女は恥じらいを知らないし、俺を馬鹿にしてからかっているとゆうりはイライラした。
またぎゅっと抱き寄せられ、舌打ちをするとさらに蜜樹がニコニコとするので、このまま参考書を読むことにした。
「学校は?行ってるの」
「…行ってるよ」
「陽翔くんと涼太くんも退院して学校行き始めたって」
「……だからなんだよ」
「気まずくない?君たち、もう敵同士なんだよ」
「………別に、普通」
「そう」
蜜樹は力を少しだけ込めてゆうりをぎゅっと抱いた。
ゆうりは伏目がちにため息をつき、参考書の文字を眺めるだけだった。
「あ、ゆうりくん、蜜樹ちゃん
こんにちは」
「日向ちゃん、こんにちは」
「……」
「…無視?」
「うるせぇ」
入室してきた日向を一瞥もくれず、ゆうりは参考書から顔を上げなかった。
「というかもう離せよ、うぜぇんだよ」
「はいはい」
「………」
「なに見てんだよ、気持ち悪りぃな」
「なんかかわいそう」
「は?」
「孤独ってこうも人を歪ませちゃうんだなぁ…
僕はそうならないように気をつけなきゃ。
教えてくれてありがとう!」
「は………なんだよ、お前…」
日向はにっこりと笑い、心の底からゆうりに感謝しているようだった。
なにを考えているかわからない…。
正直、白衣の男よりも、日向の方が苦手だった。
「まぁまぁ、お互い言い過ぎよ」
「え、僕なんも言ってないよ」
「………」
「はぁ。私は、次の仕事いくから仲良くしなね。
じゃあね、ゆうりちゃん」
蜜樹の胸に抱かれたが、なんの感情も今は湧いてこなかった。
日向に言われたことが衝撃すぎて。
蜜樹は廊下を歩きながらため息をつく。
スマホを長い爪カカカッとタップし、文字を打ち込む。
スマホをいじっていると、とある画像が目に入った。
ぴたりと止まり、しばらくそれを凝視し、ポツリとつぶやいた。
「………あたし、頑張るから………」
そう言い、蜜樹は新しい現場へと向かった。




