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108話 太陽




日向は自分の手を見つめた。

豆が潰れた、綺麗とは程遠い手。

なんの感情もわかなかった。




「…………」




ぼんやりと天井を見つめた。






「よし」





ミヤコは解体した遺体を百合のテーブルに乱暴に置いた。




「その所作はやめなさい」




「梅様…」




また百合の味方。




梅に注意され、ミヤコは俯き、退室した。




「もうやだ」




「ねぇ」




「きゃ!

……日向」




日向の顔を見たら、少しほっとした。




「前に、過去を話してくれたでしょ」




「え?ええ…」




「今日は、僕の話聞いて」




「え?」




珍しい。

日向が自分の話を言いたがるなんて。




「だって、そっちが話してくれたのにこっちは話さないのは公平じゃないでしょ」




「あ、そういう…」




がっくり、その表現がぴったりあった瞬間だった。




紅茶を入れ、最初日向は飲もうとも話そうともしなかった。

15分経った頃、ようやく日向は口を開いた。




「僕はね、孤児院で育ったんだ。

でも、その前は…」









————-






両親は駆け落ちして、事業をなんとか少しずつではあるが発展させ、安定した頃に日向を産んだ。





「日向が将来自分たちみたいに苦労しないように」




一軒家、小さな庭に小型犬がいる家庭だった。

日向が将来、苦労しないため、両親は英才教育を施した。

英会話、ピアノ、体操教室…でも日向はそんな習い事に興味はなく、両親といたかった。





「太陽まだ?」




そんなある日母が妊娠し、太陽という名前の弟が生まれる日を日向は毎日尋ねた。




「ママとパパと僕の太陽」




日向はずっとぴったり母に寄り添い、母は日向とお腹にいる太陽に絵本を読んだ。

日向ははやく、太陽と会ってやりたいことを手帳に毎日記した。





「やだ!今日は太陽といる」




「ちゃんと行きなさい!」




英会話教室なんか行きたくない。

そんなとこにいってるうちに太陽が生まれてしまうかもしれない。

母のお腹は臨月を迎え、いつ生まれてもおかしくなかった。





「バス来てるから!」




「やだ!ママといたい!」




「日向!」




「まぁまぁ…生まれたら日向との時間もなかなか取れなくなるだろうし…



日向、今日はパパとママが迎えに行くから。

なんか食べて帰ろうな」




「ほんと!?

アイス食べたい!」





「まったく…いいよ。

じゃあ迎えに行くから、頑張るんだよ」




「うん!」





日向はバスに乗り、手帳を広げた。





「たいようとやりたいこと

アイスをたべる!」




そう記した。




「太陽…なんのアイス好きになるかなぁ?」





僕はバニラもいちごもチョコも好き。

そうだ!




「たいようと、せかいじゅうのアイスぜんぶたべる!




…と。

きっと100年はかかる!」





英会話教室が終わり、30分、1時間過ぎても、迎えは来なかった。




「ママ?パパ?…」





1時間半経った頃、ようやく迎えに来たと思ったら。

知らない警察のおじさんだった。




「………?

こんにちは!」





「君が日向くんかな」




「うん」





トラックとぶつかって、両親が運転していた車は大炎上したらしい。

相手側の居眠り運転で、トラックの運転手は骨を折るだけの怪我だったようだ。





「ママ…パパ…太陽は…?」




太陽まだ?

迎えまだ?




「ねぇ見て。

太陽と世界中のアイス食べるんだ!」





「なにあの子」




「かわいそうに、現実が見えてないんだよ」




「だれがあの子引き取るのよ」





駆け落ちだった両親に味方などいなかった。





「ソラは?」




「…ソラ?」




「うん!

僕のわんちゃん!

太陽が生まれたら一緒に…」




「ああ…

あの犬は、もう保健所に渡しちゃったよ」




「保健所?」





「もう、いないよ」




意味がわからなかった。




「あんたさえいなきゃ、兄さんは死ななかったのに」



————


「僕がいなければ、パパもママも死ななかったし、太陽だって無事に生まれてた。

ソラだって。



なんで僕だけを死なせてくれなかったんだろうね?」




日向は笑ってミヤコにそう言った。




「そんなこと…」




「でもわかってる。

泣いても悔やんでもみんなはかえってこない」




————




結局引き取り手は見つからず、孤児院に入ることになった。




「僕が…わがまま言わなきゃよかった……」




日向は手帳をぎゅっと握り、ゴミ箱へ向かった。




「もう、叶わない」




そう言い、ゴミ箱に捨てた。

それを1人の少女が見つめていた。




次の日。




ボーっとゴミ収集車がゴミを回収しているのを黙って見つめていた。





「ねぇ」




「…?」




「これ、あなたのでしょ?」




その子の手には捨てたはずの手帳があった。




「なんで…」




「私、ラナ。

あなたは?」

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